トランプ大統領は欧州との関係を壊してしまうのか? 上がる憂慮の声

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 アメリカ・ファーストを掲げるトランプ大統領は、パリ協定からの離脱、鉄鋼・アルミ製品への輸入関税発動、イラン核合意破棄など、関係国を驚かせる行動に出ている。とりわけアメリカと長らく協力関係にあり、信頼関係を築いてきた欧州の国々のショックは大きく、トランプ政権への不信感は危険水域に達しつつある。

◆まさかの連続 アメリカの心変わりに混乱
 ニューズウィーク誌は、大統領就任2年目の今、トランプ大統領は選挙公約を実行に移しており、これが欧州を揺らしていると述べる。最近、鉄鋼・アルミ製品への関税措置の対象とされたことで、EUはトランプ政権を批判し報復関税を課すと発言した。しかし実際のところ貿易戦争は望まず、むしろエスカレートして大きな犠牲を伴う事態になることを憂慮していると同誌は指摘する。

 欧州と米政権の間で問題化しているのは貿易だけではない。アメリカは欧州が重視する地球温暖化防止のための国際的枠組み「パリ協定」や、イランの核開発抑止を目指す「イラン核合意」からの離脱を表明した。また、アメリカとEUの自由貿易協定である「環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)」もほごにしている。さらに防衛面でも、トランプ大統領は北大西洋条約機構(NATO)を一時は「古くさい」と呼び、参加国はアメリカに頼らずもっと独自に防衛費を増やすようにと要請したこともあった。

 欧州委員会のティメルマンス第1副委員長は、今まで変わることがないと思ってきた欧米関係が試されているとし、危機感を露わにしている(ニューズウィーク誌)。欧州各地に赴任した経験を持つバリー・マキャフリー元米陸軍大将は、フォーチュン誌に寄稿した記事の中で、アメリカと欧州の関係はどん底に達したと自信を持って言える、と述べている。

◆アメリカと欧州の関係を破壊 諸悪の根源トランプ氏
 しかしマキャフリー氏は、欧州が嫌っているのはアメリカではないと断じる。欧州とアメリカは同じ価値観を共有し、アメリカはEUの最大の貿易相手国でもある。また、間違いなくNATOはアメリカの最も大切な防衛同盟であり、アメリカのグローバルなリーダーシップを維持するには、欧州の存在は欠かせないと同氏は指摘している。結局欧州が嫌っているのはトランプ大統領であり、政策ポジションの移し替え、頻繁に行う事実と異なる発言、そして「アメリカ・ファースト」のスローガンが、欧州の同盟国を狼狽させていると述べている。

 ドイチェ・ヴェレの主筆、イネス・ポール氏も、トランプ大統領がすべてを変えてしまったと考えている。同氏は、トランプ大統領が任命したリチャード・グレネル駐ドイツ大使が、欧州の現体制に批判的な右翼ナショナリスト政府を力づけるような、大使としてはあり得ない発言をしたことを問題視し、アメリカは欧州の分断に油を注いでいると主張している。もはやトランプ氏に頼れないことを認めざるを得ず、アメリカがEUの団結への脅威となってしまった以上、未来への明確なビジョンを持ったEU改革で対応するしかないとしている。

◆それでもアメリカは必要 トランプ時代を乗り切れるか?
 アメリカはもう欧州の最重要同盟国ではないという意見に対し、ロンドンのシンクタンク、チャタム・ハウスのレスリー・ヴィンジャムリ氏は、現政権の一時的な政策に脅かされるほど、欧州とアメリカがこれまで築いてきた絆は弱くないとしている。EU懐疑派の台頭をトランプ氏が煽っているという見方もあるが、ポピュリズムや移民排斥といった問題はアメリカとEUに共通の問題であり、それを乗り越えるチャレンジが、近い将来もう一度アメリカとEUを近づけるのではないかとも述べている(ニューズウィーク誌)。

 米シンクタンク、国際戦略研究所のダナ・アリン氏は、ヒスパニックやミレニアル世代の増加といったアメリカの長期的な人口動態的変化により、福祉、気候変動、外交政策などの問題で、国民の見方が欧州の左派的な方向に向かうのではないかと見ている。こういったトレンドは、トランプ氏の台頭にかかわらず存在し、イデオロギー的、政策的にも欧州と足並みを揃える可能性をもたらすとニューズウィーク誌に話している。

 結論として、安全保障を提供し、大きな経済力を持つアメリカから離れることはできないとヴィンジャムリ氏は述べる。欧州はトランプ政権の間は対応に苦労することは間違いないが、お互いの関係を支える基盤をできる限り維持して、トランプ氏在任中の嵐を乗り切ることが大切だとしている。

Text by 山川 真智子