イスラエルがトルコに反発、100年前の虐殺を議会に提出へ ガザ衝突めぐり対立エスカレート

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 パレスチナ自治区ガザで14日、米国が在イスラエル大使館をエルサレムに移転したことに抗議するデモ隊とイスラエル軍が衝突し、多数の死傷者が出た。これにより、パレスチナを支持するトルコとイスラエルの対立が激化し、歴史認識の問題にまで飛び火している。

◆ガザ衝突、トルコ大統領が「手に血が付いている」と非難
 トルコはガザでの衝突を受け、自国に駐在しているイスラエルの大使に国外退去を命じた。その後、イスラエルも同様にトルコの駐エルサレム総領事に帰国を命じ、両国の関係は悪化している。

 トルコのエルドアン大統領はツイッターで、パレスチナに対するイスラエルの政策を激しく非難。イスラエルは「国連決議に違反して無防備な人々の土地を60年以上占領しているアパルトヘイト(人種隔離)国家」と主張した。さらには「彼(ネタニヤフ首相)の手にはパレスチナ人の血が付いている」とまで発言している。イスラエルのネタニヤフ首相もエルドアン大統領への批判をツイッターに掲載しており、首脳同士がツイートで非難し合う展開となっている。

◆批判への“報復”? オスマン帝国時代のアルメニア人虐殺を議会で審議か
 トルコとイスラエルの対立激化はガザでの衝突に端を発したものだが、全く別の問題にも波及している。イスラエルの国会議員が議会に対し、1915~16年にトルコの前身であるオスマン帝国がアルメニアで約150万人の住民を殺害したとされている事件を「ジェノサイド」(ある人種・民族を、計画的に絶滅させようとすることを意味する用語)であると認める法案を提出しようとする動きがある(5月16日付エルサレム・ポスト)。

 法案提出に向けて動いている議員は、その動機に今回のガザ衝突があるということを明確にしている。「シオニスト連合」のItzik Shmuly議員は、「シリア北西部に暮らす数千人のクルド人に毎日爆弾を落としていて、アルメニア人に対するジェノサイド(中略)に責任のある反ユダヤ主義のトルコの虐殺者からの説教を受け入れるつもりはない」と主張した。

 ネタニヤフ首相もエルドアン大統領を批判するツイートの中で、エルドアン大統領には道徳について説教する資格がないという趣旨の発言をしている。「トルコには言われたくない」という感情がイスラエル国内では強いのかもしれない。

◆100年前の事件をなぜ今? 「ジェノサイド」認定問題
 今回提出される予定の法案は、1915~16年のアルメニア人殺害が「ジェノサイド」であると認めるものだ。100年以上前の事件を議会に持ち出すことは突飛に感じられるかもしれないが、アルメニア人に対する「ジェノサイド」認定の問題は、欧州などで現在でも取り上げられることがある。

 例えば、ドイツ連邦議会は2016年にアルメニア人に対する「ジェノサイド」の認定を行っており、これまでに認定している国は29ヶ国に上る。一方トルコは、アルメニア人の犠牲者が出たことは認めているものの、「ジェノサイド」ではなく、人数ももっと少ないと主張しており、各国の「ジェノサイド」認定に反対している。

 イスラエルでもこれまでに議会が「ジェノサイド」を認定しようとする動きがあったが、トルコとの関係が悪化することを懸念して見送られていたという。しかし、今回のガザ衝突でトルコとの関係を「格下げ」しようとする声があり、再度法案を提出する動きが出てきたようだ。

 制度上の理由で実際の法案提出は8月以降になるということだが、アメリカのワシントン・ポスト紙は「トルコの激しい怒りを買うだろう」と指摘している。

Text by 後藤万里