北の会談中止示唆、米メディア「いつもの手」と冷静 不安はトランプ氏の手腕

Ahn Young-joon / AP Photo

 融和ムードに傾いていたかに見えた北朝鮮が16日、態度を一変させた。直後に予定されていた南北会談をドタキャンしたのに続き、6月に予定されている米朝首脳会談の中止を示唆する高官のコメントを発表した。

 ただ、米国メディア・識者の大半は、これを「北朝鮮のいつもの反応」と冷静に受け止めているようだ。その中で、「金正恩はトランプを試している。今、全世界がそれを見守っている」(CNN)といった、トランプ大統領の手腕を不安視する声も挙がっている。

                                                                                                                 

◆繰り返される北朝鮮の約束破り
 北朝鮮の金桂寛(キム・ゲグァン)外務省第1次官は16日、朝鮮中央通信を通じて、米国が「一方的に」核放棄を要求するなら、米朝首脳会談を再考するとの声明を発表した。この数時間前には、米韓空軍の合同軍事演習「マックス・サンダー」が行われていることを理由に、韓国と予定していた高官級の会談を突如中止していた。

 APはこの北朝鮮の動きを「激しくゴールポストを動かしている」、ニューヨークタイムズ(NYT)は「北朝鮮が180度方向転換」と報じている。ただ、これは想定内の動きで、特に驚きはないというのが、米メディアの主要な論調だ。NYTは、「まず、外交的なアプローチで相手に接触し、それに続いて一貫性のない態度を示す。そして、多くのケースで(初期段階に醸成した)平和への序曲を徹底的に排除する」のが、北朝鮮のいつものパターンで、今回もそれが繰り返されただけだと見ている。

 NYTは、過去の北朝鮮の「突然の方向転換」の事例を次のように列挙している。①6ヶ国協議からの離脱(6ヶ国協議を受け入れ、2005年には核の放棄を約束。しかし、その翌年に初の核実験を行い、2009年には核開発再開を宣言し国連査察団を追放)②ワシントンの軟化政策を拒否(2008年、アメリカは北朝鮮をテロ支援国家から外し、核施設の閉鎖の見返りに経済支援を行う方針を示す。北朝鮮はいったんこれを受け入れるも、査察団の受け入れを拒否し、最終的に合意は崩壊)③オバマ政権との合意も反故に(比較的北朝鮮に融和的な姿勢を取っていたオバマ政権とは、2012年に食糧支援の見返りとして寧辺核融合炉の操業停止と査察団の受け入れを約束。しかし、1ヶ月もたたないうちに“人工衛星”の打ち上げで米側を脅し、合意は破棄された)

◆「金正恩はトランプを試している」
 今回、北朝鮮が“方向転換”の口実にしているのは、米韓合同軍事演習と米国による「一方的な」核放棄の要求の動きだ。後者について、金桂寛氏は、声明の中で、アメリカは北朝鮮に「大国に譲歩したことによって崩壊したリビアやイラクと同じ運命を負わせようとしている」と非難した。

 APは、これについて、リビアのカダフィ大佐と同じ轍は踏まないという金正恩氏の意思が見て取れるとしている。カダフィ氏は2004年、経済制裁解除の見返りに核を放棄したが。結局は地位を追われて逃亡の末対立勢力に殺害された。この時、米政府側の担当者だったのが、トランプ政権の中枢にいるジョン・ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官だ。APは「北朝鮮は核兵器を簡単に諦めないというアナリストたちの警告を証明するもの」だと、今回の北朝鮮の動きを分析している。

 CNNのコラムニスト、フリーダ・ギーティス氏は、北はトランプ大統領に揺さぶりをかけているのだと見る。金正恩氏は、トランプ大統領がどれだけ米朝首脳会談の崩壊を防ごうとするのかを試しているというのだ。「小さな譲歩によって、相手の譲歩を引き出し、後に約束を破る」という、父・金正日氏、祖父・金日成氏と同じ手法を繰り返しているのだと、同氏も指摘する。

◆懸念されるトランプ大統領の手腕
 では、トランプ政権はどのような対応をするべきか。ギーティス氏は、北朝鮮の「マックス・サンダー」への懸念は見せかけの口実にすぎず、首脳会談中止の脅しにも合理的な根拠があるわけではないとしている。そのうえで、演習の中止は新たな譲歩を生むだけで、会談を履行するための条件にしてはならないと指摘する。

 ギーティス氏は、そもそもトランプ大統領の北朝鮮外交には懐疑的なようだ。国内で「四面楚歌」の状態にあるトランプ氏は、「平静を装っているが、北朝鮮との交渉で起死回生の政治的勝利を得ようとしているのは明白だ」と述べる。それを裏付けるようにノーベル平和賞にも欲を出しているとし、そうした私利私欲に基づいた外交姿勢は「既にあらゆる交渉事における基本的な間違い」だと批判している。

 また、北朝鮮側の譲歩は今の所核実験場の閉鎖だとされているが、米識者の多くは、それによって北朝鮮が受けるダメージは少ないと見ている。最近の主要施設だった豊渓里(プンゲリ)実験場は、既に山の崩壊事故によって大きなダメージを受けているうえ、同実験場の使命は既に果たされていると見られているからだ。トランプ大統領が北朝鮮のペースに飲まれるようだと、また過去と同じ堂々巡りが繰り返されることになりそうだ。

Text by 内村 浩介

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