シリアへの人道的介入に見える国際法の限界

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著:Andrew Bellインディアナ大学、Assistant Professor of International Studies)

 この衝撃的な事実について考えてほしい。報道されている通り、シリアでまたも化学兵器攻撃が行われたという恐ろしい状況にも関わらず、一般市民を守るため4月13日にアメリカが主導し決行した人道的介入は、まったくの違法行為だったのである。現行の国際法の下では、一般市民の命を守るという明確かつ当然の理由があったとしても、トランプ大統領には、さらなる攻撃を阻止するために一発のミサイルも発射する権限はない。

 この介入行為に対する世間の見解がどれだけ良識的であったとしても、法学者らは皆、化学兵器による攻撃がどれほどの悪意に満ちたものであったとしても、国際連合憲章は、国連安全保障理事会の承認がなければ、攻撃の予防を目的とした軍事力の行使を認めていないと主張するのが普通だ。この事実は道徳的に間違っているように思える上に、「悪の」体制に反対し、人権を守るという大義を損なうものであるようにも見える。

 シリア危機に関する調査を実施した結果、無実の市民を残虐な行為から守るという点に関しては、国際法は根本的に破綻しているという事実が明らかになった。

 シリアを始めとする世界各国において、一般市民を標的とした凶悪な攻撃が繰り返される前に、国連の法的枠組みの綻びを改善し、一般市民への化学兵器攻撃に対する軍事力の行使が認められるようにすることが重要だ。

 しかしどのようにすれば、それが可能となるだろうか?

◆伝統的な規則
 まずは現在の枠組みが確立されるまでのプロセスから検討しよう。

 国連憲章の取り決めでは、各国が他国に対し軍事力を行使できるのは、自衛目的の場合か、国連安保理の承認を受けた場合に限られる。安保理ではアメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシアの5ヵ国が常任理事国を務め、拒否権を持っている。

 この規則は第二次世界大戦の後、国際社会の安定性を高めるために定められた。国連憲章は大国5ヵ国に拒否権を付与することで、安保理の決定が引き金となって大国間に紛争が生じないようにしたのである。

 しかし現代では、拒否権があることで、一般市民を標的とした大規模な残虐行為を阻止するための措置など、どのようなものであろうと安保理の決定事項が、一国の意見で無効になってしまう。

 バッシャール・アル=アサド政権を支持するロシアは、シリアに対するあらゆる強硬措置の提案を、繰り返し拒否してきた。そのためアメリカは、さらなる化学兵器攻撃を阻止するためであろうと、軍事力を法的に行使する術がほとんどなくなってしまった。

 そのような国連憲章の禁止事項に反し、アメリカ、イギリス、フランスを始めとする各国が一般市民を守る行動を実施したことがある。1999年にはNATOがコソボへの人道的介入を実施し、2017年4月にはトランプ大統領がシリアへのミサイル攻撃に踏み切ったが、いずれも一般市民を守るために、国際法に違反して軍事力を行使している。

 実を言うと、世界の世論はこのような「違法な」攻撃を黙認してきた。あるいは奨励していたと言っても過言ではない。実際、爆撃の翌日にロシアがシリアへの攻撃を糾弾する決議案を提出したが、安保理理事国の15ヵ国中12ヵ国が反対票を投じるか、投票を棄権した。この投票結果から、介入への支持や容認が広まっていることが見て取れる。

 このように状況は混乱しているが、国際法を改善し、今後このような一般市民を狙った暴力行為を防ぐためにアメリカが実践できる決定的な方法は、現在のシリア危機から見出すことができる。

◆効果的な方法とは
 アメリカはまず、国連安保理に、シリアに対する介入の承認を正式に求めるべきである。人道的な目的であることを明確に示せば、おそらくロシアが拒否権を行使するので、アメリカはそこで再度、現在の枠組みでは、正義と合法性が結びついていないと強く主張する。そのような投票を行うことで、現行の国際法がいかに破綻しているか示すこともできる。

 次に、アメリカは国連憲章の枠組み改定に向けた国際的イニシアチブを発足し、一般市民に対する化学兵器攻撃防止に向けた取り組みを進めるべきである。2001年にカナダが発足したイニシアチブと同様、このような国際的イニシアチブは、安保理が膠着状態に陥った場合にも、人道的介入を合法として承認する決議案を作成できる。別の記事でも論じたが、化学兵器の使用に対する介入は限定的なものとし、その限度を数値化して示す。そうすることで、現在の人道的介入決議案より多くの支持を得られるだろう。

 最後に、アメリカは外交関係を駆使して、国連でそのような提案の採択を支持する各国に呼びかけ、世界連合を創設すべきである。それは簡単ではないだろう。72年間の歴史の中で、国連が主要原則を変更する決議案を採択したことはほとんどない。さらに現在の安保理理事国には、あえて自らの影響力を弱めるだけのインセンティブがほぼない。

 このような事実があったとしても、国際法の慈善性、適法性、一貫性を推進するというイニシアチブの最終目標を叶えるためであると思えば、取り組みを進める価値があるだろう。国連憲章の改定案が無事に採択されるというのは現実的ではないが、このような話題を議論することで、現在の破綻したシステムの変更に向け、長期的な影響を及ぼす可能性がある。このように長期的な目で物事を進めることにより、人権を推進し、今後一般市民が化学兵器攻撃に巻き込まれることのないよう予防し、最終的には、国際社会の慈善性と正義を推進するという国際法の力を強化できるだろう。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by t.sato via Conyac

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Text by The Conversation