トランプ氏のイランと北朝鮮へのダブスタ 「誤ったメッセージ送る」欧米各紙が懸念

Carolyn Kaster / AP Photo

 5月はアメリカのトランプ大統領と世界にとって、命運を分ける月となりそうだ。トランプ大統領には、「核」に関する2つの重大な外交イベントが待ち受けている。1つ目は、5月12日までに決断するというイラン核合意からの離脱問題、もう1つは6月初旬まで行われる予定の米朝首脳会談だ。

 そして、この2つに対し、トランプ大統領は矛盾した態度を見せていると、複数の欧米メディアが懐疑的に報じている。イランと締結した核合意を破棄しようとしている一方で、北朝鮮とは新たな核合意を結ぶ–。この一貫性に欠けた外交が実行されれば、最悪の場合、イランと朝鮮半島の非核化が共倒れになるという懸念が広がっているのだ。

                                                                                                                 

◆対イランでは合意の放棄と制裁再開か
 イランと欧米、中国、ロシアの7ヶ国が2015年に結んだ核合意「イランの核問題に関する包括的共同作業計画」(JCPOA)は、イランが核開発を中止し、国際社会の査察を受け入れる見返りに、各国による経済制裁を解除するというものだ。アメリカも、前オバマ政権がこれに賛同し、主導的立場で参加した。

 しかし、トランプ大統領は選挙戦当時からイラン核合意には懐疑的な立場を取り続けていた。制限の対象になるのは核開発だけで、ヒズボラなどのイスラム過激派武装勢力とシリアのアサド政権への支援など、中東の不安定化につながっているイランの行動は野放しにされていると批判を繰り返している。当の核開発についても、JCPOAは、2025年までの期限付きの条約であることから、恒久的な核放棄にはつながらないと非難。現に通常兵器としての弾道ミサイル開発は継続されており、期限が過ぎればすぐにでも核弾頭を搭載できるではないか、というのがトランプ大統領の主張だ。

 こうした主張に基づき、トランプ大統領は、前政権が主導した合意の破棄と制裁の再開、その後のより厳しい新合意の形成を訴えている。先月24日のフランスのマクロン大統領との会談でも、JCPOAは「バカげている」とし、「よりずっと広範囲な新たな合意の形成に向けた取り組み」の可能性に言及した。これに対し、マクロン大統領は合意参加国の立場から、アメリカの離脱に反対する見解を示した。

◆北朝鮮とは合意形成に自信
 トランプ大統領は、イランに対してはより厳しい制裁と新たな合意が必要だとする一方で、金委員長との首脳会談には楽観的な態度で挑むのではと指摘されている。金委員長は、先の韓国の文在寅大統領との南北首脳会談で、アメリカが侵略しないと約束すれば核を完全に放棄すると述べたとされる。ワシントン・ポスト紙(WP)は、この件を引いて、トランプ大統領は自身が続けてきた北朝鮮に対する「最大限の圧力」が南北首脳会談に結びつき、朝鮮半島の和平ムード作りの要因となったと自画自賛していると指摘する。

 英ガーディアン紙は「米朝首脳会談でアメリカが求めるのは、大まかには北朝鮮の核兵器の放棄と査察の受け入れだ」としているが、トランプ大統領は、その譲歩を引き出すことに自信を持っているようだ。同紙もWPと同様に、「トランプ氏は今のところ、追い風を受けていると信じている。瀬戸際外交だという批判も多く出ているが、軍事的圧力と経済制裁による自身の厳しい態度が、平壌を交渉のテーブルにつかせたと信じている」と書く。

 しかし、アメリカがイランとの合意を破棄した直後に、北朝鮮がその同じ国と合意を結ぶ気になるだろうか? この疑問を、WPは「矛盾」という言葉を使った見出しで表現。ガーディアンは、異なるアプローチで2つの核問題に挑むのは「ギャンブル」だと強調している。アイルランド紙、アイリッシュ・タイムズは、「北朝鮮との核交渉に入る直前にもう1つの核合意を破ることにより、アメリカの約束は空約束だというメッセージを与えることになる。つまり、北朝鮮に譲歩する理由がないと思われるリスクがある」と疑念を呈している。

◆トランプ氏の舵取り一つで和平ムードが一気に崩れる可能性も
 WPが特にトランプ大統領の態度に矛盾を感じる大きな理由は、まがりなりにも2015年の合意事項を守っているイランには厳しく、信頼する理由が何もない北朝鮮には甘いという点だ。「イランは自国で人権を侵害しているし、中東を不安定化させている存在かもしれない。しかし、平壌の全体主義の孤立した王朝よりはオープンで、国際社会ともつながっている。そして、北朝鮮と違い、国際査察を認め、実際に核兵器を保有していない」と同紙は書く。

 また、アイリッシュ・タイムズは、イランが核開発を凍結したにもかかわらず罰する一方で、つい最近まで核・ミサイル実験を行っていた北朝鮮と首脳会談を行うのは不公平感があると指摘する。さらに、「期せずして、核をちらつかせてアメリカにことごとく逆らう無法者国家の方が、うまく立ち回れるというメッセージを送ることになるのではないか」と同紙は懸念する。

 北朝鮮の非核化は、もともとトランプ大統領が考えているほど甘くはないのではないかという意見も目立つ。ガーディアンは、北朝鮮には、1994年と2005年に核放棄の約束を破った“前科”があると指摘。WPも「多くのアナリストは、純粋なブレークスルーの可能性に懐疑的だ。北朝鮮は最近の歴史でも約束を破っているし、両陣営が思い描く“非核化“にはまだ大きなギャップがある」と書いている。

Text by 内村 浩介

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