高まる米露軍事衝突の可能性 強化されたシリアの防空網、トランプ氏の「保身」

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◆今度は大規模攻撃となるか
 こうした微妙な両大国の反応を受け、ロシア政府系シンクタンクのアンドレイ・コルツノフ氏は、「私はもちろん、今がかつてのキューバ危機のような緊張のピークにあるとは思わない」と、ABCのインタビューに答えている。しかし、同時に「トランプ政権誕生後、最も危険な状態」だとも述べる。CNNも「冷戦以降、ロシアとの直接戦争に最も近づいている」と報じている。

 今回、アメリカによるシリア攻撃が実行されれば、昨年4月に行われた空軍基地へのミサイル攻撃よりも大規模なものになると見られている。WPは、「より広範囲で激しい攻撃になる」という憶測が米識者に広がっていると指摘。「ステルス機も参加する複数の目標への大規模攻撃になるかもしれない。アサド大統領がシリアを手中に収めるのに不可欠な軍事施設と経済インフラにダメージを与えるものとなるだろう」としている。同紙は前回の空軍基地以外の具体的な攻撃目標に、「指揮コントロールの中枢施設」「武器弾薬倉庫」「ヘリコプター部隊」「民間空港」「港湾施設」「化学プラント」を挙げている。

 対するシリアの防空網は、前回の攻撃の際よりもロシアの後ろ盾により強化されていると指摘されている。ロシア軍は自軍の主力が駐留する北西部フメイミム空軍基地周辺を中心に最新鋭のS-400地対空ミサイルやSU-57ステルス戦闘機を配備。シリア軍にも幅広くやや旧式の地対空ミサイルを供与しているとされる。シリアの防空力の強化は、今年2月にこれまで被撃墜記録がほぼ皆無だったイスラエル軍のF-16戦闘機が、シリアの地対空ミサイルによって撃墜された件で証明された(WP)。

◆国内スキャンダルが影響?
 こうした大規模攻撃が実行された場合、ロシアの反撃はあるのだろうか? ABCは、複数のロシアのコメンテーターやロシアウォッチャーは、「クレムリンにはアメリカのミサイルを迎撃する意思がある」と見ていると報じている。ミサイルを発射した艦船や航空機への直接攻撃も辞さないだろうという見方もあるようだ。アメリカが直接ロシア軍を狙うことはないだろうが、現在、各シリア軍部隊や政府関連施設にロシアの軍事顧問が広く派遣されており、ロシア軍関係者に犠牲が出れば反撃の口実になりうるとABCは指摘している。

 前回の攻撃の際には、アメリカはロシアに事前通告しており、ロシア軍関係者は避難して傍観を決め込んだという実績がある。しかし、より広範囲な大規模攻撃となる場合、それが通用するかは未知数だ。ロシアの政治コメンテーター、ディミトリー・トゥレニン氏は、「アメリカとロシアは、冷戦以来最も直接的な軍事衝突に近づいている」と、他の多くの識者と同様の見解を示したうえで、「私の唯一の関心は、アメリカがダマスカスを攻撃した場合に、ロシアが反撃するかどうかだ」と、首都への攻撃が米露衝突の鍵となると見ている。

 そもそも、トランプ大統領には攻撃を実行する意思がどれくらいあるのだろうか? CNNは、現在トランプ大統領が直面する国内スキャンダルと密接に関わってくると報じている。トランプ大統領の個人顧問弁護士が大統領選期間中に、トランプ氏と性的関係を持ったとされる元ポルノ女優に口止め料13万ドルを支払った疑惑が浮上。米連邦捜査局(FBI)は9日、顧問弁護士の事務所の家宅捜索に踏み切った。スキャンダルの内容以上に、FBIの家宅捜索が大統領の関係先に入ったという事実が、米政界やメディアでは重く受け止められているようだ。

 同日、トランプ大統領はホワイトハウス内での会合で「完全な魔女狩りだ」「下劣」「我が国に対する攻撃だ」と家宅捜索に怒り狂ったという。CNNはこれを受け、トランプ大統領が国内スキャンダルから国民の目を逸らすためにシリア攻撃に踏み切る可能性は十分にあると論じている。しかし、そのような理由ならなおさら、とばっちりを受けるシリアの一般市民はたまったものではないだろう。

Text by 内村 浩介