アサドの無法、介入者たちの複雑な利害 混迷極めるシリア情勢

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◆ロシアとイランの信頼関係にひび
「イランがシリア側についている理由ははっきりしている」と、テロや紛争問題に詳しい元アメリカ財務省のアナリスト、ジョナサン・シャンザー氏は言う。同氏は、政治ニュースメディア『ポリティコ』に寄せた分析記事で、「イランは自国と地中海を結ぶ回廊としてシリアを重視している」と解説。イランにとって、同じシーア派に近いアサド政権がシリアを治めていた方が自国の利益になると考えているのだ。

 ロシアはイランとアサド政権側につく形で、2015年秋から反政府勢力への空爆を行うなどシリア内戦に介入。シャンザー氏は、当時のオバマ政権に対抗して中東への影響力を奪取することと、「アラブ世界全体にロシアは強くて信頼できる仲間だと示し、ロシア製の先進的な武器を適正価格で供給する用意があると伝えるためだった」と、ロシアの当初の狙いを説明している。

 しかし、一連のイスラエルによるT4基地への攻撃では、ロシアは表立った反撃はしなかった。これによりイラン・シリア側に大きな犠牲が出たことで、ロシアとイランの蜜月関係は「崩壊した」とシャンザー氏は言う。ロシアはもともと、裏でイスラエルとも密接に連絡を取り合い、どっちつかずの態度を取り続けていたとも同氏は指摘している。そして、2度目のT4攻撃は、イスラエルがロシアの介入がないことを確信したうえで実行したと見る。

◆「中途半端な介入で事態が悪化」
 シャンザー氏の分析からは、ロシアはイスラエルとの直接対立は極力避けようとしていることが見て取れる。米シンクタンクのアナリスト、オファー・ザルツベルグ氏はNYTの取材に対し、「モスクワは、アサドとヒズボラ側(シーア派民兵組織)につく裁判官、あるいは陪審員になることを決めた」と述べている。ロシアはあくまでイランとアサド政権側につきながらも、一歩引いた位置に立つオブザーバー的なポジションにいるということだろうか。

 このロシア・イラン・アサド政権の微妙な連合に対し、アメリカと西側諸国はどう対処すべきか?英作家・ジャーナリストのサイモン・ジェンキンス氏は、ガーディアン紙のオピニオン記事で「西側がシリアで取れる唯一のオプションは、さらに悪化しないようにするか否か。それだけだ」と述べている。西側が7年前の段階で「アサドは間もなく失脚する」という間違った見通しのもとで、中途半端な介入をした結果が現在の混乱に結びついていると同氏は見る。「中途半端な介入は完全不介入よりも悪かった」という見解だ。

 そして、ジェンキンス氏は「シリアの戦争は、アサドの勝利によってのみ終わる。我々にできるのは、その後彼にどう対処するかということだけだ。今の時点では、西側の軍事介入は全く無意味だ。我々は世界を支配しようとする習慣を捨てなければならない」と、トランプ大統領が示唆する早急な軍事行動に反対している。生き残りをかけた戦いをしている独裁王朝は、たとえ武力を用いたとしても国際社会の非難など気にしないと、同氏は主張する。思えばそれは、我が国により身近な北朝鮮情勢にも当てはまることかもしれない。

Text by 内村 浩介