中朝国境の元密輸業者が語った密輸の実態 「良い日は40万円以上稼いだ」

Ng Han Guan / AP Photo

 男性が現在暮らしている工業都市、蔚山広域市の昼食時。しかし男性は、レストランの席についたものの二日酔いを宥めながら、1杯のビールを少しずつ飲んでいるだけだ。男性の話によると、北朝鮮の国境部隊は何年もの間、密輸品の持ち込みを容認し、賄賂と交換してくれていた。「この国境部隊こそ、密輸のきっかけを作っていたのだろう」。

 密輸への関与についてインタビューに応じた誰もがそうであったように、元密輸業者の男性も、数々の違法行為を行ってきたと認め、匿名を取材の条件としていた。

 その男性は北朝鮮側のパートナーと協力し、銅屑を中国に運び込むことを生業としていた。パートナーが車を手配し、北朝鮮との北東の国境を成す鴨緑江流域の、人気のないところまで数トンの金属を運ぶ。その辺りは人里離れた農村部で、川の側面には小さな山々が連なり、道はほとんど整備されていない。そして監視の目が届かない時がある。セキュリティに神経を尖らせている北朝鮮とはいえ、国境の監視所と監視所の間は500メートル(1/4マイル)以上離れている。

 元密輸業者の中国人男性は、北朝鮮の兵士を雇い、50キログラムの金属を袋に詰めて、川の対岸へと運ばせた。タイヤのチューブを膨らませて作ったゴムボートに乗せて流すこともあった。そして中国側で待機していた車が、密輸品を素早く運び去る。

 兵士には、荷物をひとつ受け取る毎に、食べ物やビール、スナックを渡した。特に豚肉を渡すことが多かった。

 元密輸業者は、「自分は思いやりのある人間だ」と、唸るように言った。

 

Text by AP