中朝国境の元密輸業者が語った密輸の実態 「良い日は40万円以上稼いだ」
金正恩総書記の独裁政権が始まって以降、長年に渡り、北朝鮮と外の世界を繋ぐ役割の一端を密かに担ってきた小規模な密輸業者らの仕事が、急速に失われつつある。北朝鮮との繋がりを上手く確保できた中国のほんの少数の大企業が、北・中国境付近で行われる貿易を支配するようになったためだ。
金総書記が自国の核・ミサイル開発プログラムを推し進めるにつれ、国際社会からの制裁措置が次第に厳しさを増していることから、国境での貿易にはこれまでよりも洗練された業者が好まれるようになり、小規模な密輸を行ってきた業者らは苦境に立たされることとなった。北朝鮮の安い煙草を絶えず吸っている50代のやせ細った男性は、元密輸業者だ。昨年北朝鮮を離れ、親戚を頼って中国に移り住むまでは、北・中国境付近にある秘密のルートを辿り、ひっそりと川を渡って密輸業を行っていた。
元密輸業者は、「昔は10台のテレビを一度に運ぶことができた。冷蔵庫もそれくらい運べた」と言う。
しかし今となってはもう無理なことだ。
裏社会における密輸を巡るトラブルを見てみると、北朝鮮の経済に国境がいかに大きな役割を果たしているのかがわかる。そしてこのようなトラブルを契機とし、表社会からはほとんど見ることができないその世界の内情を知る機会が得られた。密輸ネットワークに関与していた10数名(その大半が元密輸業者か闇市場の商人)が詳細なインタビューに応じるというのは非常に稀なことだが、2011年末に金正恩総書記が政権に就いて以降、彼らの暮らしがいかに変化したかを聞くことができた。
国民に厳しい弾圧を加えながら孤立を深める国家、北朝鮮において、密輸は犯罪とは程遠いものだった。密輸業者は、国が食糧難に苦しむ時には食料をもたらし、自動車部品からついには韓国のテレビ番組まで、ありとあらゆるものを北朝鮮に持ち込んだ。テレビを運び込む一方で、脱北を望む家族を外へ連れ出した。密輸は尊敬を集めるほどの専門職となり、密輸業に就くことは中流階級へとステップアップできる好機でもあった。