ハワイのミサイル誤警報:訂正まで38分、職員が解雇されなかった理由

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 ハワイで1月13日、ミサイル攻撃の警報が誤って送信されたことによって、ハワイの住民が一時パニック状態に陥った。この騒動の原因は一体何だったのか。さらには、この騒動によって明らかになったのは何なのか。ミサイル誤警報の顛末を追っていくと、この騒動が日本から見て「対岸の火事」で済まされないことがわかってくる。

◆ミサイル警報ボタンに何が起こったか
 ニュースサイト『ビジネスインサイダー』によると、ミサイル誤警報の原因はハワイ緊急事態管理局職員が犯した人為的ミスであった。この職員がシフトを交代する直前に、担当していたコンピュータに表示されたドロップダウン方式(選択メニューが縦に並べて表示される)のメニューを確認していたところ、誤って選択してしまったのだ。この選択メニューには「ミサイル警報」と「ミサイル警報テスト」の2種類があり、メニュー選択後には「本当に実行していいですか」という確認メッセージが表示されるように設計されていた。こうした設計にもかかわらず、ミサイル誤警報は発せられたのだった。

 ハワイ緊急事態管理局を監督するバーン・ミヤギ氏によると、ミサイル誤警報のボタンを押した職員はひどく狼狽していたという。ただ騒動の後、この職員が厳しく追及されることはなく、部署の移動に留まり解雇とはならなかった。というのも、ミサイル誤警報は人為的ミスというよりも緊急事態管理システムに内在していた深刻な欠陥によるものであったからだ。

◆ミサイル誤警報が明らかにしたこと
 1月13日の午前8時過ぎにミサイル誤警報は送信されたのだが、誤警報であるという情報が流れるまでに38分を要したことをUSAトゥデイ紙は伝えている。誤警報が訂正されるまでの38分間、ハワイ住民はミサイル警報を本当のものと信じて、シェルターを探しながらパニック状態に陥っていたのだ。警報が訂正されるのに38分もかかったのには理由がある。ミサイル警報システムには、誤警報を取り消す方法が設計されていなかったのだ。人為的ミスを想定しないというのは、システム設計としてお粗末と言わざるを得ない。

 さらに言えば、ミサイル警報が送信されて住民が騒然となったこと自体に問題があるとも言える。もし、本当にミサイル警報が送信された場合、住民の安全が速やかに確保されなければ、警報を発した意味がないだろう。こうした事態をうけて、ハワイ州知事のデービッド・イゲ氏は「一連の騒動に関して非常に憂慮しており、緊急事態管理システムの運用手順と人員動員について速やかに改善できるように最善を尽くす」という声明を発表した。

◆ハワイ(と日本)が置かれている状況
 ミサイル誤警報の余波は、アメリカ本土にも及んでいる。タイム誌は、ハワイ州選出のトゥルシー・ガバード下院議員(民主党)が、今回の騒動に言及したうえで、トランプ大統領に改めて北朝鮮との非核化交渉を促したことを報じている。「なぜミサイル誤警報というできごとがハワイの住民に降りかかったのか、このことに関する根本的な問題を理解しなければなりません。その問題とは、今日アメリカが北朝鮮からの核の脅威にさらされていることです。ミサイル誤警報は、大統領が北朝鮮からの脅威を除去するために速やかに行動すべきことを意味しているのではないでしょうか」と述べたのだ。

 ミサイル誤警報の根本的原因が北朝鮮からの脅威であると認識すると、この騒動がハワイだけではなく日本でも起こり得ることだと理解できる。ハワイで起こったことは、決して対岸の火事ではない。それでは、日本は果たしてハワイよりミサイルの脅威に対して備えがあるのだろうか。ハワイの騒動をきっかけとして、日本もミサイルの脅威を「わが身の脅威」としてとらえ、さらに気を引き締める必要がありそうだ。

Text by 吉本 幸記