分析:米のエルサレム首都認定で何が起きるのか? 「和平プロセスは終わった」

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 イスラエルとパレスチナの対立が続くエルサレム問題について、アメリカが劇的な政策転換を見せた。西欧諸国が支援するパレスチナの指導者は、これは危険な裏切り行為であり、和平問題を大きく揺るがすもので、国際舞台においてアメリカやイスラエルとの危険な対立が余儀なくされると見ている。

 パレスチナ自治政府の指導者マフムード・アッバス議長は、アメリカ主導のイスラエルとの和平交渉を正式に放棄するか否か、決めかねている。交渉は難航しており、20年たった今もパレスチナは国家として国際社会から承認されていない。しかし、アッバス氏に近い関係者は、長きにわたって一進一退を繰り返してきた交渉の歴史も、そしてアメリカが仲介人の役割を独占する時代も、今終わったのだと話す。

 この後、いったいどんなことが起きるのだろうか。

◆エルサレムが抱える歴史的問題
 トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都だと承認したのは12月6日だ。エルサレムは3つの宗教(イスラム教、キリスト教、ユダヤ教)にとっての聖地であり、国際社会は長きにわたってその帰属は話し合いによって決定されるべきだという認識を共有してきた。トランプ氏の決定はこれと矛盾している。パレスチナ人が将来的には首都に、と望む東エルサレム(今はイスラエルが入植)を含め、エルサレム全域の領有を宣言する唐突な方針転換は、アメリカがイスラエル寄りの立場をとっていることをあらわしている。

 エルサレムをめぐる紛争はイスラエル・パレスチナ間の対立の核心となる部分だが、これは単なる領土問題ではない、エルサレムはユダヤ教の聖地であり、また世界中にいる数十億人のイスラム教徒やキリスト教徒にとっても神聖な場所だ。過去にはそれぞれの主張を軽視したことから、大規模な抗議運動や暴動が起きている。

◆アッバス議長の対応
 アッバス議長はここまで、国際的な支援を集めるため奔走している。ローマ教皇をはじめ、EU各国の外交政策責任者やアラブ諸国の指導者にも働きかけている。彼はトランプ大統領との電話会談で、アメリカの政策転換はパレスチナ周辺地域を揺るがし、中東和平協定に向けたワシントンの計画を脅かすことになると警告した。

 トランプ大統領の宣言をうけて行われたスピーチでアッバス議長は、アメリカが自ら中東の仲介者としての役割を事実上放棄したのだと話した。ただ、パレスチナがどのような緊急措置に出るのか(もし何かするのであれば)、具体的には踏み込まなかった。

 アッバス議長はパレスチナ解放機構(PLO)の関係者や自ら率いるファタハとの間で内部協議を行うことになっている。7日、アッバス議長は最も親交の深いアラブの盟友であるヨルダンのアブドラ国王2世と面会した。

◆最後の審判の時なのか?
 エルサレムの危機により、確固たる信念を持ち、交渉を通じた国家形成を追求するパレスチナの覇者であるアッバス氏は、長年避け続けてきた段階へと推し進められることになるかもしれない。つまり、少なくとも現在の形では「和平プロセス」が機能していないことを突き付けることになる。

 反対派は、終わりのない交渉を続けることで、イスラエルが、戦争で勝ち取った土地への入植をすすめるだけではないか、と抗議している。また、アッバス議長がこのプロセスから政治的正統性を引き出し、自分こそが国家を救う唯一のリーダーなのだと自らを位置づけたのだとも言われている。

 トランプ氏は、エルサレムに関しては姿勢を転換したものの、中東和平の仲介者としての立場は変わらないと話す。しかし、アッバス議長に近い関係者は、別の選択肢を探す時期だと話している。

 PLO高官のハナン・アシュラウィ氏は、アメリカ当局との対話は今や「無駄で無意味」であると話している。「和平プロセスは終わった」。

 アッバス氏は過去に、いわゆる「2国家共存」が失敗すれば、パレスチナは一国主義を追求することになるかもしれない、と警告していた。イスラエルにとって、もっとも避けたい道だ。

 パレスチナの指導者は、彼の長年の政策から逸脱することに消極的、あるいは政治的な勇気に欠けているのかもしれない。しかしここで舵を切らなければ、さらに事態が悪化しかねないとアナリストのバッセム・ズバイディ氏は述べた。

「彼らが要求する最低限度をはるかに下回るような提案をアメリカが出してくるかもしれない。それを受け入れざるを得ない圧力下に置かれる前に、パレスチナ人は今こそ[ノー]と言うべきだ」。

◆その他の選択肢?
 一部のPLOおよびファタハの関係者は、アメリカとの協力姿勢やイスラエルとの紛争を避ける姿勢を、より対立的なアプローチへと移行していくことを提案した。

 アメリカは今後数年間で、イスラエルのテルアビブからエルサレムへ大使館の移転を計画している。それについて、ファタハ高官ナッセル・アル=キドワ氏は「ファタハはエルサレムのアメリカ大使館とは断交し、ワシントンのPLO事務所は閉鎖、そしてアメリカに対する抗議文書を国連安全保障理事会に提出するべきだと考えている」と述べた。

 さらに、別の情報筋によると、パレスチナ側は国際刑事裁判所の検察官に対し、過度な入植地建設も含め、イスラエル指導者の戦争犯罪を訴追するよう呼びかける可能性もあるという。

 アッバス議長は、アメリカのあからさまな圧力のもと、今に至るまでこのような措置を控えている。

 国際刑事裁判所の検察官は現在、パレスチナの領土の状況について予備調査を行っているが、この調査には際限がなく、何年もかかる可能性がある。この調査は、「パレスチナ」が国際裁判所の加盟国になったことによって実施されたものだ。

 振り返ってみると、2012年に国連総会でヨルダン川西岸地区、ガザ地区および東エルサレムがパレスチナの国家として認められたことにより、状況に変化が起こった。これらはすべて1967年にイスラエルによって奪われた土地だ。

◆ヨーロッパからの援助は?
 ヨーロッパ各国からはトランプ大統領のエルサレム政策に対する厳しい批判が相次いでいる。それを受け、パレスチナ人からはヨーロッパに援助を求める声が増えている。

 ヨーロッパ諸国はこれまで、アメリカから資金援助の役割を担わされており、長期にわたって紛争状態のパレスチナ自治政府を救済するため、何百万ドルもの支援金を送ってきた。

 ヨーロッパ諸国はイスラエルの政策、とりわけ入植に関してはアメリカよりも批判的な姿勢をとることが多かったが、アメリカが仲介人の役割を独占する状況を覆すことはできなかった。

 パレスチナ人は今、エルサレム問題で欧州首脳陣とアメリカの間で亀裂が深まることを臨んでいる。手近な目標としては、影響力のある西ヨーロッパ各国にパレスチナを国家として承認してもらうことだ。

◆リスク、それともチャンス?
 パレスチナ人にとって、トランプ氏の政策転換はリスクでもあり、チャンスにもなる。

 エルサレムは何度も暴力の火種となっており、アメリカの政策転換が発表された後の抗議行進ではイスラエル軍との衝突が起きた。

 このような対立が制御しきれない状況になることもある。10年以上前には武装蜂起にまでエスカレートしたことがある。アッバス議長は、暴力は非生産的であると断固として否定しているが、市民の怒りが広がれば抑えきれなくなる可能性がある。

 トランプ氏の政策転換は、従来の理論的枠組みの下で国家樹立する、という発想が永続的なものではない、と示すことで、真実を照らし出し、長年続く停滞期を終わらせることになるかもしれない、と言うものもいる。

「今、テーブルからその選択肢が消えた。そして、それは良いことなのだ」とパレスチナ自治政府の元法務顧問、ダイアナ・バトゥ氏は言う。「それが何年もの間、我々の足かせとなってきたのだ」。

By KARIN LAUB, AP
Translated by isshi via Conyac

Text by AP