中国共産党大会に参加の“台湾代表” 台湾人がプロパガンダだと非難する理由

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 中国本土と台湾の関係性は不安定なものだ。内戦で中国国民党が共産党に倒され、台湾島に逃げた1949年以降、台湾は実質中国本土とは独立した存在であった。しかし、中国政府は未だ台湾の独立を認めたことはなく、そのうち中国を「統合」し領土を取り返すと主張している。

 これらのことを踏まえると、中国政府が五年に一度の共産党全国代表大会に台湾からの代表者が送られるよう手配していることは不自然なように思われる。

 この会議への台湾からの代表の存在は、中国政府の「一つの中国」政策を世に広めるための作戦である。過去の「台湾代表」とされる党員は、みな中国本土の出身であった。

 しかしこれまでとは違い、今回、2017年10月に行われた第19回共産党全国代表大会に台湾からの代表として選ばれた盧麗安氏は台湾で生まれ、そこで教育も受けた。彼女は教授として中国本土で働き始めるまで、台湾で過ごした。

 それでもなお、沢山の台湾人は、台湾を統治していない中国の代表大会への参加を馬鹿げているものと感じている。また、台湾を「一つの中国」の一部であると台湾に認めさせ、独立運動を抑圧するための政治的な戦略だったとも捉えている。

 台湾が歴史の中で様々な国に植民支配されてきたという背景もあり、台湾からの亡命者は珍しくない。盧氏は決して初めての亡命者ではないし、最後でもないだろう。例えば、2008年から2012年まで世界銀行のチーフエコノミスト及び副総裁を務めた林毅夫氏は、彼が台湾の軍人だった1979年に中国に泳いで渡った。

 共産党全国代表大会への盧氏の出席は台湾では冗談のように扱われたが、中国で働く台湾人の国籍の深刻な問題にもかかわっている。台湾の法律は、台湾人が中国のパスポートを所持することと、中国共産党や中国人民解放軍や公的な役職に就くことを禁止している。盧氏が中国のパスポートを持ち、共産党全国代表大会へ参加したことで、台湾政府は彼女の市民権をはく奪することを決定したのだった。

 時を同じくして、台湾の国家安全局は、中国共産党か人民解放軍に参加した19人の台湾人の市民権についても調査を行うと発表した。

◆「共産党に加入する以前に、台湾人を敵に回してしまったらあなたに一体何の価値があるの?」
 共産党全国代表大会からまもなく、北京大学に通う2人の台湾人の大学院生が共産党に加入したいと、公に宣言したことで議論はさらに白熱した。

 その一方は、ガンチャ(Guancha)と呼ばれるネットニュースサイトでこのことを公表した。この投稿の中で彼は、台湾では民主主義が少人数によって支配されていて、表現の自由も思想の自由もないことから、共産党に加入したいと明かした。

 この文書は、2017年の世界報道自由度ランキングで台湾が45位、中国が176位につけていることや、台湾人は現に立法府と元首を自分たちの手で選んでいることもあり、台湾でこの発言は大々的に批判された。

 共産党が台湾で覇権を握ろうとしていることを受け、雅言出版(Ars Longa Press)の設立者であるJoyce Yen氏は、フェイスブック上で、二人の学生の存在が盧氏のように共産党に利益をもたらすことはないと語った。

「盧氏は代表に立候補していないという点に注目するべきだ。彼女は中央統一戦線工作部の幹部である沙海林氏によってこの役職を紹介された。彼女の洞察力とコミュニケーション能力は、彼女がこの役職を得るために必要不可欠だった。共産党に加入したいと申し出た二人の台湾人学生の洞察力とコミュニケーション能力は、基準を大きく下回っているように見受けられる。彼らは、共産党のイエスマンであるだけで雇ってくれると思っているのだろうか? 間違っている! 共産党に加入する以前に、台湾人を敵に回してしまったならば、あなたたちは中央統一戦線にとって何の価値があるのか?」

 中央統一戦線工作部は共産党中央委員会直属の5つの部署の一つで、国内外でのソフトパワー的な政策を決定する役割をもつ。この部の中には、中国と香港、マカオとの「一国二制度」を調節し、親中台湾人を雇うための局が存在する。

 台湾に通う中国人留学生である伊洛人氏は、台湾生まれの北京大学の学生は、台湾を中傷することによって得られる利益のためにこのようなことをしたのだろう、とフェイスブックで語った。

「彼らが台湾を売ったとき、実際には台湾の独立運動が売られたのだ。台湾の独立運動が強くなれば、中国政府は対抗するためにより強い戦線を台湾に対して気づくだろう。

[伊洛人氏が現地メディアに送った手紙から抜粋]
河南省生まれの中国人として、抜け抜けと祖国を捨てたとしても、彼らと同じような待遇を共産党から得ることはできないのは明らかだ。これは、北京、上海、四川、広東で生まれた全員にとっても同じだ。台湾の特殊なところは、いくら中国政府が中国の一部と主張しようとも、台湾が実質的に独立した国家であり、自らの政府、軍、そして西洋諸国との外交関係を持っているところだ。」

◆「私は台湾が好きだが、中国も母国として好きだ」
 国境を巡る議論はさておき、盧氏が巻き起こした議論は、多くの台湾人を苦難に直面させた。台湾も中国も二重市民権を認めていないが、多くの中国本土で働いている台湾人や中国と台湾の国際結婚をしているカップルは中国の市民権を得ている。もしも彼らがどちらかを選ばないといけないならば、彼らは中国での仕事を捨てるか、自分の出身地より中国を尊重するような形で中国本土に忠誠を誓わなければならない。

 共産党の盧氏ですら、「私は台湾が好きだが、中国も母国として好きだ」と全国代表大会中に台湾の記者に発言したことで、中国の愛国者から非難を受けた。中国の本土に住む人々の一部にとって、彼女の受け答えは「ポリティカル・コレクトネス」がなかった。ウェイボーの”Lazy-fish-play-in-Weibo”というアカウント名のユーザーは、盧氏に対する批判についてこう言及した。

「盧氏を批判した人たちにとって、『私は台湾が好きだが、中国も母国として好きだ』という発言は受け入れがたいものなのだ。特に、中国『も』という表現が、中国が二番手かのように聞こえて嫌なのだろう。つまりは、彼女は中国を最優先にはしていない。しかも、彼女は台湾と中国を独立したものとして捉えている。…批判した人たちは、盧氏はこう答えるべきだったと言っている。『私は中国が好きだし、台湾は中国の一部として好きだ』または、『台湾は中国の一部だから好きだ』と」。

 2016年に台湾の独立を推進する政党の蔡英文氏が大統領選挙に勝利してから、中国政府は台湾政府との国交を解消し、他の国にも関係を断つよう促した。一方で、中央統一戦線工作部は台湾のエリート層の支持を獲得しようと努力している。最近では、中国の福建省が台湾の学者1,000人分のポストを用意したと発表した。それに応募するにせよしないにせよ、この選択は個人的なものでも政治的なものでもあるようだ。

This article was originally published on Global Voices. Read the original article.
Translated by AnthonyTG

Text by Global Voices