イエメン内戦:いま何が起きているのか、終結の展望は? AP分析

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 サウジアラビアが脆弱な南の隣国への圧力を強める中、2年以上前にサウジアラビア側の攻撃によって勃発したイエメンでの戦争は、これまで以上に混沌とした情勢となっている。事態が好転する展望は全くない。

 サウジアラビア主導の連合軍が、亡命した大統領を復帰させようと、北イエメンの大部分を瓦礫に変えながら制空権を掌握したにもかかわらず、イランの政治的支援を受けるイエメンのシーア派反政府勢力は、首都サナアを含む広範囲の領土を依然として保持している。

 また、米国の支援を受ける連合軍が最近、反政府勢力を困窮させ降伏を促す狙いから、支援物資の輸送阻止を含めた経済封鎖を強化したが、反政府勢力は掌握が困難な山岳部や都市部に未だに潜伏し続けている。

 シリアやリビアなど他の地域紛争とは異なり、現在イエメンの情勢は拮抗している。また、和平交渉の余地もない。サウジアラビア、イラン間の対立も激化していることから、両陣営ともかたくなに勝利に固執しており、両陣営の面目がたつ解決策はなさそうだ。この戦争で、すでに1万人以上の民間人が犠牲となり、何百万ものイエメン人が飢饉の瀬戸際に追いやられているが、早期終戦の展望はない。

◆フーシ派は弱体化したが、地下に潜伏
 イエメン全土、特に北部において、フーシ派の名で知られるシーア派の武装派反政府勢力が主導権を握っている。フーシ派は大多数の政府機関や軍事拠点を支配しているだけでなく、軍備も十分に保持し、前大統領アリー・アブドッラー・サレーハ氏が築いた強力な軍の残党の後援も受けている。しかし、医療、水道、電気など各地のインフラは劣悪化している。

 フーシ派に対抗するのは、表向きは亡命したアブド・ラッボ・マンスール・ハーディー大統領に忠実な軍事勢力の寄せ集めと、サウジアラビアとその友邦アラブ首長国連邦を事実上の盟主とする部族の集合体だ。

 この陣営は、イエメンの第二の都市でありハーディー氏の政権基盤である港湾都市アデンを含む、南部の大部分を支配下に収めている。しかし、現地の治安は悪く、地元当局の苦戦と度重なる攻撃のため、ハーディー氏は一年のほとんどの間首府に戻れずにいた。

 サウジアラビアもアラブ首長国連邦も、イエメン全土を掌握する力はなさそうだ。以前に試みられた北部進撃は連合軍側の手痛い敗北に終わり、アラブ首長国連邦軍に100名以上の戦死者を出した。

◆リーダー不在
 ここまでの戦闘で明らかになったのは、イエメンには幅広い支持を得た指導者がいない、ということだ。

 北部で長らく不遇を受けていたシーア派の分派であるフーシ派は、自らを腐敗と戦う革命集団と見なしている。しかしフーシ派の現リーダー、アブドルマリク・アル・フーシ氏は謎の多い人物で、めったに人前に姿を現さず、その支持は宗派の外にまで大きく広がるものではない。

 このフーシ氏のかつての盟友サレーハ氏に関しても同様だ。2011年のアラブの春で退陣を余儀なくされるまで、サレーハ氏は部族間のバランスの取れた統治で国を掌握してきた。だが最近はその彼も、戦前の自身の統治時代を回顧する以外では、本格的な政治的アピールをほとんど行っていない。一説によれば2人はすでに決裂しており、フーシ派がサレーハ氏を自宅軟禁しているというニュースも時おり流れる。

 一方、ハーディー氏も、戦後イエメンの未来のリーダーとして有望とは言い難い。現在、サウジアラビアの首都リヤドで亡命生活を送っているハーディー氏は、今年2月以降、安全上の理由から地元アデンへの帰還をサウジ当局から止められている。ハーディー氏の影響力低下を見透かして、アラブ首長国連邦はイエメン内に自前の軍事勢力を築き、自国に忠実な武装勢力に訓練し、資金も供給している。

◆食い違う連合軍各国の政策
 イエメン南部で別の地域リーダーらを支援してきたアラブ首長国連邦の影響力深化は、ハーディー政権との摩擦を生み、その統治をさらに損ねる結果をもたらした。

 また、サウジアラビアとの対立は表面化していないが、アラブ首長国連邦はイエメン内の保守強硬派サラフィー主義勢力を積極的に支援している。彼らをもって、サウジアラビアの公認を得ているムスリム同胞団の地方支部など、アラブ首長国連邦が敵視するイスラム組織への防壁とする狙いだ。

 サウジアラビア政権は、歴史的にも、より過激なスンニ派の民兵に対して寛容だ。このことも、南部イエメンにおける敵味方の勢力図を分かりにくくしている。当地ではアルカイダとISISの系列組織が活動し、時にはアデンや他の南部都市も攻撃している。

 同じことは、無法地帯に近いイエメン東部にもあてはまる。国家の統制が行き届かない広大な砂漠で、アメリカ軍のドローンが民兵組織を散発的に攻撃している。現時点では大きく問題化していないが、連合軍の構成国間のこのようなスタンスの違いは、多様な部族が混在するイエメン全土は言うに及ばず、イエメン南部を統一する際にも、潜在的な障害となりうる。

◆イラン排除
 サウジアラビア主導の連合空軍と海軍による封鎖は、それだけで戦争の勝利をもたらすものではないが、大規模なイランの介入をほぼ不可能にした。

 イラン政権はイデオロギー的にフーシ派に近く、フーシ派への政治的・外交的支援は厭わない。しかし、フーシ派への武器供与については否定している。いっぽう、アメリカ海軍とサウジアラビア連合軍側は、武器を積んだ小型の漁船がイエメンにむかう海上でときおり拿捕されるたびに、イランが武器を運んでいると非難している。

 どちらの主張が最終的に事実であるかは不明だ。しかし、この海上封鎖が、戦況を変えうる量の武器がイエメンに流入するのを防いでいることは事実だ。

 前述のサレーハ氏は、ミサイルを含め、長年かけて十分な量の武器の備蓄を行ってきた。サウジアラビアとアメリカは否定しているが、最近サウジに向けて発射されたミサイルは、フーシ派が主張するように、現地イエメンで製造された可能性もある。金曜日には、中東の米国空軍のトップは、「11月4日にサウジの首都に向けて発射されたミサイルはイラン製だ」と発言した。さらに、ミサイルの残骸にはイランのマークがあったとも述べた。それに対するイラン側からの反応はなかった。

 フーシ派とイランは、戦争が始まってすぐの頃は、両国の首都間で直行便を運航していたが、現在そのようなルートは存在しない。仮にイランが武器の再補給を試みたとしても、成功は不可能に近い。しかしながら、小型の船舶であれば、沿岸を介して誘導システムのような小さな部品を密輸することは可能かもしれない。

By BRIAN ROHAN, Cairo
Translated by Conyac

Text by AP