論文も標的に 強まる中国の言論弾圧、屈する欧米出版社も 広がる危機感

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◆分かれる対応。報復を恐れた自己検閲まで
 ワシントン・ポスト紙(WP)は、情報を広める商品でのビジネスを外国企業が中国で行う場合、「中国の法に従うことは、検閲に降伏すること」という非常に頭の痛い問題に突き当たると述べる。様々な企業がそれぞれの対応をしており、アップルは中国政府の命令でNYTのアプリを除外することに黙従し、グーグルは事業継続をあきらめ撤退した。

 NYTは、学術出版社は大学におけるアイデアの豊かな流れを規制する習近平主席の恰好のターゲットとなっていると述べる。ケンブリッジ大学出版局は、後日撤回したものの、一度は数百の論文の削除に応じた。学術的コンテンツを扱う、大手商業出版社、Sage Publicationは、今のところ中国でのコンテンツ遮断は行っていないが、要請があれば、必ずしも拒絶しないとしている(FT)。習政権下での中国は、その巨大な市場を切り札として使うことにより大胆になっており、外国企業は、言論の自由に関する厳しい要求に屈することを強いられているとNYTは指摘している。

 もっとも、検閲を拒否する出版社もある。シカゴ大学出版局は、選択的な検閲に応じるぐらいなら、すべてのコンテンツを中国市場から撤去すると述べ、マサチューセッツ工科大学出版局も、政治的検閲は、大学と出版局が支持するすべてへのアンチテーゼだとしている。オックスフォード大学のクリストファー・パッテン総長は、中国は重要な収入源だが、同大学出版局はコンテンツの遮断は行わないと述べている(FT)。

 ただ、出版社の対応が分かれる限り、中国が経済力を使って、一社ずつ狙い撃ちにする恐れもあると指摘する専門家もいる(FT)。CNNによれば、オーストラリアでは、「静かな侵略:いかにして中国がオーストラリアを傀儡国家にしているか」という本の出版が、「悪意のある名誉毀損行為」で中国に訴えられる可能性があるという出版社側の判断で、延期された。これは、圧力を恐れて出版社が自己検閲に走った事件とも言え、中国の影響が国境を越えて著者や出版社の困難を作りだしている例だ、とCNNは述べている。

◆自由を奪う習政権。検閲受け入れは、言論弾圧に加担すること
 カリフォルニア大学アーバイン校のジェフリー・ワッサーストロム教授は、すべての出版社に、中国の要求を拒否し、中国が世界中の科学や教育に関するコンテンツへのアクセスをひとまとめに遮断することもいとわない気持ちがあるのかテストするよう求める。そしてなんらかの連携した努力が必要だとし、ある時点で、どんなに儲かっていようと、中国市場から立ち去らねばならないと述べている(FT)。

 WPは、西洋の知識やビジネスを取り入れることで自由化が促進され、それが孤立よりよいことだと中国が気づくだろうと一時は考えられたが、結局中国は寛容にはならず、逆に向かってしまったと述べる。文化大革命、天安門事件などの中国史の一部が欠けた学術誌のコレクションには、真実が欠けていると訴える同紙は、習政権は表現の自由を奪っており、この抑圧的なキャンペーンを助けぬよう、外国人は慎重を期すべきだとしている。

Text by 山川 真智子