論文も標的に 強まる中国の言論弾圧、屈する欧米出版社も 広がる危機感

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 中国が、ネット上の検閲システム「グレート・ファイア・ウォール」で、共産党にとって脅威となり得る情報を遮断し、国内を統制していることは良く知られている。これまで海外のニュースサイトやソーシャルメディア・サービスなどは広くブロックされてきたが、学術誌の場合はかなり検閲を回避できていた。しかし、中国政府の要請を受け、特定の論文を中国国内のサイトから外す学術出版社が現れており、巨大市場を切り札に、欧米の出版社に「パワープレー」を仕掛ける中国の姿勢が懸念されている。

◆中国政府の要請。大手出版社が白旗
 フィナンシャル・タイムズ紙(FT)によれば、『ネイチャー』、『サイエンティフィック・アメリカン』などを持つ世界有数の学術出版社、シュプリンガー・ネイチャーは、台湾、チベット、香港を含む敏感な話題に言及した、少なくとも1000本の学術論文へのアクセスを、中国本土で遮断したという。

 欧米メディアによれば、中国側の要請がシュプリンガー・ネイチャーにあったらしい。同社は、中国の国内法を順守せざるを得ず、同社のコンテンツが完全に差し止められるのを防ぐためだったとし、対象となったのは巨大なコンテンツ・ライブラリーの1%未満だと弁明している(FT)。同社の幹部は、「大変遺憾だ」としながらも、今回の措置は編集上の検閲ではなく、同社が他の国で出版、またはアクセスを許すコンテンツへの影響はないと述べている(ニューヨーク・タイムズ紙、以下NYT)。

Text by 山川 真智子