静かに進む中国の南シナ海開発 北朝鮮問題の裏で「行動規範」も隠れ蓑か

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 南シナ海の領有権問題で対立するASEAN(東南アジア諸国連合)と中国が13日、首脳会議を行い、南シナ海での紛争防止を目的とする行動規範(COC)の内容を具体的に決定する交渉を開始することで合意した。8月のASEAN外相会議で基礎的な枠組みが承認されたが、これにより、最終的合意に達するゴールが見えてきた。

 行動規範制定による南シナ海問題の平和的解決を期待する声が多い一方、「COC交渉は、人工島建設や軍事基地化推進の中国の外交的隠れ蓑に過ぎない」といった懐疑的な見方もある。アメリカのトランプ政権が北朝鮮問題にかまけている間に中国が南シナ海の完全支配を既成事実化しようとしているという指摘もあり、まだまだ予断を許さない状況は続きそうだ。

◆中国の海洋進出の「外交的隠れ蓑」という批判も
 来年1月、各国の技術チームが再びフィリピンの首都マニラに集まって会合を開き、具体的な話し合いを開始する見込みだ。中国とASEAN諸国は、2002年に争いの種となるような行動を自制するとした「中国・ASEAN の南シナ海における関係国行動宣言」を行っているが、近年は中国が人工島建設を急ピッチで進めるなど、とても履行されているとは言えない状況だ。同宣言から15年を経て、今回、ようやく具体的な規範を策定することが決まったため、「画期的な合意」だとする報道も多い。

 マニラ在住のアジア研究者、リチャード・ヘイダリアン氏は、香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)に寄せた解説記事で、「これは間違いなく正しい方向に向いた正しい一歩だ」と書く。しかし、具体的な着地点はまだはっきりとしておらず、同氏は「問題は、(平和的解決という)目的に沿った話し合いのもと、何十年も続く争いの解決に大きな影響を与えることができるかどうかだ」と、その影響力は今のところ未知数だとしている。

 8月に定められた基礎的な枠組みの中では、ASEAN側が要望した法的な拘束力は、中国の反対で盛り込まれなかった。これを受け、「骨抜きの行動規範」「中国の海洋進出にかえってお墨付きを与えるだけだ」といった批判的な意見も多い。ヘイダリアン氏は、「COC交渉そのものが、中国による(南シナ海の)造成・軍事基地化の外交的な隠れ蓑として利用されているという批判も上がっている」と指摘する。

◆北朝鮮問題の影で着々と支配力を強める中国
 米外交誌フォーリン・ポリシーは、最近の南シナ海を巡る動きは、アメリカ不在のまま静かに、しかし、中国有利な形で不気味に進んでいると見ているようだ。トランプ大統領は11月5日から12日にかけて、日本、中国、韓国、ベトナム、フィリピンを訪問したが、このアジア歴訪の旅の焦点は北朝鮮問題と経済協力に集中し、南シナ海問題は隅に追いやられていたと同誌は指摘する。

 同誌に答えた識者は、その理由は、南シナ海で「直近、あるいは中期的な危機の兆候がないため」としている。しかし、最近はここ数年見られた「一夜にして人工島が出現する」といった目を見張るような動きはないものの、軍事基地の拡大、レーダー施設の建設、ミサイルシェルターの強化、巨大な軍需物資倉庫の建設といった「静かな動き」が続いていると同誌は指摘する。そして、これが識者の間では、「中国による南シナ海の完全支配を現実にする脅威」に映っているという。

 南シナ海には、中国海軍や沿岸警備隊の艦船、漁船に偽装した“海上民兵”が全域に展開している。人工島に補給施設が点在する今では、本土に補給に戻る必要がないために、より効率的で大規模な展開が可能になっていると同誌は指摘する。アメリカの関心が薄れている間に、中国は着々と地歩を固めているのだ。

◆「仲介役」のフィリピンに期待する声もあるが……
 SCMPに寄稿したヘイダリアン氏は、他のASEANと中国の仲介役としてのフィリピンの役割に注目する。先のASEAN首脳会議の会場になり、1月の技術会合の会場にも予定されているフィリピンは、比較的中立的な立場だとされているからだ。

 ドゥテルテ大統領は、ASEAN首脳会議に先立つ11日のアジア太平洋経済協力サミットの場で中国の習近平主席と会談し、南シナ海問題を「今はそっと静観し続けるべきだ」と述べたと報じられている。その背景には、「中国との経済的友好関係を強める代わりに、南シナ海問題にはソフトな姿勢を取る」という同大統領の政策決定があると見られる。そうした立場から、ヘイダリアン氏は「フィリピンは両陣営の外交交渉に引き続き大きな影響力を持つだろう」としている。

 ただ、「結局のところ、経済的な餌を突きつける北京に対抗する気概と力のある国は少ない」と、中国の経済力を前に、ASEAN諸国が南シナ海での権利を強く主張するのは難しいとも同氏は指摘する。このままなし崩し的に中国有利な行動規範が策定されることになれば、アメリカのみならず、日本も厳しい立場に追い込まれることになるかもしれない。

Text by 内村 浩介