核兵器廃絶を願うローマ教皇、アメリカと北朝鮮へのメッセージ

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【バチカン市国・AP通信】 フランシスコ・ローマ教皇はバチカン国際会議で、核兵器により高まりつつある朝鮮半島の緊張緩和を求め、核軍縮への支持を呼び掛けたいとしている。同会議にはノーベル平和賞を受賞した11名を始め、国際連合及び北大西洋条約機構 (NATO) 関係者、そして核爆弾を保有するごく少数の国々からの代表者らが集まる。

 ドナルド・トランプ米大統領が大統領として初のアジア歴訪を続ける中、北朝鮮の金正恩総書記との舌戦が過熱しているが、今月10 日に開催される会議のフランシスコ教皇の基調演説を、両氏の応酬を終息に向かわせるきっかけと見るアナリストもいる。

 ローマ教皇庁は、核兵器が戦争抑止力となり世界平和をもたらすという冷戦時代の考え方への批判を高めることで、今回の会議を実りの多いものにしたいと望んでいる。

 会議のオーガナイザーを務めるローマ教皇最高諮問のシルヴァーノ・トマシ司祭によると、「ローマ教皇庁の希望には実現性がないと言う人もいる」。「しかし現時点では、何千もの核爆弾が世界に存在しようと誰の安全も保証しないという世論を盛り上げることが非常に重要だと思う」。

 核兵器の完全撤廃を求める新たな国連条約に122ヵ国が賛成した今年7月以降、大規模な国際会議が開催されるのは今回のバチカン国際会議が初めてだ。しかし核兵器保有各国とNATO加盟各国のいずれもこの核兵器禁止条約に署名していない。条約に否定的な国々は、北朝鮮の核兵器開発プログラムが急速に進展する現在、条約の掲げる高尚な理想は現実的ではないと主張する。

 ノーベル委員会が核兵器廃絶国際キャンペーン (International Campaign to Abolish Nuclear Weapons, ICAN) に本年度のノーベル平和賞を授与したことで、核兵器禁止条約への支持が高まっている。ICANは同条約の承認に向け尽力した支持団体だ。ICANのベアトリス・フィン事務局長はノーベル平和賞受賞者のひとりとしてバチカン国際会議で演説を行う。

 国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会に対し助言を行う専門家パネル委員を務めたジョージ・ロペス氏は、「この会議で極めて重要なのは、会議を通して国連条約とノーベル賞への注目を集め、その重要性を強調すること、そして「これは深刻な事態だ」と訴えること」だと言う。

 ロペス氏によると、ローマ教皇は「核問題をこれで終わらせることなく、新たな側面を加えようとしている」。ロペス氏はノートルダム大学の派遣団員として会議に出席予定だ。

 ローマ教皇庁はこれまで一貫して核兵器を否定し、核不拡散及び核軍縮に向けた取り組みを支持してきた。史上初となるラテンアメリカ出身の現教皇もまた、その方針を強く支持している。しかしフランシスコ教皇は、教皇として優先的に扱うべきその他の問題も取り入れながら核問題を論じている。核兵器は環境に対する脅威となる。また核兵器の開発費用にはより有益な使用法がある。さらに対立ではなく対話を進められれば世界は今よりずっと安全な場所になるというのが、フランシスコ教皇の主張だ。

 トマシ司祭によると、ローマ教皇庁は、今回の会議を通し、今後進むべき唯一の道は「あまりに攻撃性の高い」言葉を抜きにした対話であるという明確なメッセージをアメリカと北朝鮮の両国に発したいと願っている。

 トマシ氏はあるインタビューにおいて、フランシスコ教皇は「我々が構築すべきものは壁ではなくコミュニケーションを図る手段だと主張し続けている」と答えた。「ローマ教皇庁が主催する会議でこのメッセージを伝えることが、私たちの任務だ」。

 ローマ教皇庁はあるひとつの可能性を、少なくとも公的には無視している。それは会議をきっかけとして教皇庁が何らかの仲介役を担う可能性だ。フランシスコ教皇時代に入ってからの教皇庁は、アメリカとキューバや、もう少し最近だとベネズエラ政府と同国野党の対話を促してきた。

 しかしローマ教皇庁は朝鮮半島の緊張状態に介入する意思を完全に否定しており、ノルウェーなど実績のあるファシリテーターがその役割を果たせると示唆した。

 アメリカからはローマ教皇庁副大使が代表して会議に出席する。カリスタ・ギングリッチ大使はまだ証明書を提出していないため、バチカンの公式行事には参加できない。ロシアは原子力専門家の権威を派遣する。NATOからはローズ・ゴッテンムラー事務次長がスピーチを行う予定だ。

 中国と北朝鮮も会議への招待を受けているが、オーガナイザーは両国が代表を派遣するかはわからないと言う。どちらの国もローマ教皇庁との外交関係はない。

 トマシ氏によると、朝鮮半島で緊張状態が続く一方で、核兵器禁止条約に122ヵ国が賛成したことからもわかるように、核能力が国や地域、世界の安全性を決めるという認識を各国政府は廃止すべきだという共通認識が高まっている。

「『相互確証破壊戦略を掲げ、恐怖で平和と安全を保証しよう』ではなく、建設的な方法で信頼関係を築き、連帯感と協力体制を作り上げる努力が必要だ」とトマシ氏は言う。

By NICOLE WINFIELD
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP