緊迫化する米朝関係、各国のスタンスは? 日本は際どい立場に置かれると米紙

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 北朝鮮の金正恩委員長がグアムへのミサイル攻撃準備完了を宣言し、トランプ米大統領が「北朝鮮は米国をこれ以上脅さない方がいい。世界が見たこともないような炎と怒りに直面することになる」と牽制するなど、米朝のリーダーの言葉の応酬がエスカレートしている。今のところは、お互いに瀬戸際外交的なパフォーマンスを繰り広げているという見方が強いが、今後の展開しだいで軍事衝突に発展する可能性も十分にありそうだ。

 北朝鮮情勢を左右するのは米朝の動きだけではない。日本、中国、韓国、欧州をはじめとする周辺国・国際社会の反応も気になるところだ。ワシントン・ポスト紙(WP)などが各国の反応をまとめている。

◆中国は米の先制攻撃は阻止の構え
 最も注目されるのは、やはり北朝鮮の後ろ盾となってきた中国の反応だ。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、トランプ氏の「炎と怒り」発言への中国の公式な反応は「マイルド」で、あくまで外交的に解決すべきという当たり障りのない態度を示していると書く。トランプ大統領の娘・イヴァンカさんとその夫でトランプ政権の中国とのパイプ役になっているクシュナー氏の訪中を来月に控え、中国側としてはそれを成功させるためにも今は波風を立てたくないという事情もあるようだ。

 一方、中国政府は、国営英字紙グローバル・タイムズの社説を通じ、「もし、北朝鮮がアメリカに向けて先にミサイルを撃ち、それにアメリカが報復すれば、中国は中立を保つ。もし、アメリカと韓国が(先制)攻撃を行い、北朝鮮の政権を転覆して朝鮮半島の政治情勢を変えようとするのならば、中国はそれを阻止するだろう」と表明。戦争になった場合は、どちらが先に仕掛けるかで動きが異なってくると明言している。

 WPの中国特派員がその背景を解説する。「中国は、平壌の王朝に強いフラストレーションを感じ始めている。そして、掛け値なしに朝鮮半島の非核化を望んでいる。しかし、中国はこれまでも、長年の仲間であり緩衝国ある北朝鮮の不安定化、もしくは転覆の試みを拒否してきた。なぜなら、北京は親米の統一朝鮮と国境を接することを避けたいからだ。実際、1950-53年の朝鮮戦争では、何万人もの中国兵がそれを防ぐために死んでいる」

◆日本政府はトランプ支持も、国民感情は複雑
 関係各国の中で、最もトランプ寄りと見られているのは日本だ。WPは、「安倍首相と政府高官たちは、アメリカ大統領の戦略を支持することを再度強調している」と書く。その象徴として、菅義偉官房長官がNYTに語った「我が国の政府は、(トランプ大統領の)スタンスを支持する。状況に対処し対応するために、日米同盟の強化は非常に重要である」というコメントが取り上げられている。

 ただし、日本の国民感情が政府の姿勢と一致しているかというと、そうではないとNYTは見る。同紙は、北朝鮮情勢が悪化する中にあっても、多くの日本人が平和憲法のもと、「日本は自国への直接的な攻撃を防衛し、アメリカが攻撃的な役割を果たす」という「盾と矛」の役割分担に満足しているとする。一方、「安倍首相は、支持率低下が続く中、残りの政治生命を憲法改正に賭けている」というカーネギー国際平和財団シニアフェロー、ジェームズ・ショフ氏の見解を紹介。先制攻撃ができる長距離ミサイルの保有など、北朝鮮問題をきっかけに一気に「冒険的な動き」を進めれば、逆に国民の反発を強め、悲願の憲法改正への道は遠のく恐れがあると、ショフ氏は安倍首相の「デリケートな立場」を解説する。

 また、どのような形であれ戦争になった場合、北朝鮮がアメリカを直接攻撃するとは限らない。より近くて簡単な目標である日本や韓国に矛先を向けることも十分にあり得るだろう。「そのため、日本と韓国では、アメリカの北への軍事行動を支援するという機運は低い」とNYTは書く。防衛問題の専門家、武貞秀士・拓殖大学大学院特任教授は、トランプ大統領が北を挑発し続ける状況下で「アメリカは本当に日本と韓国の安全を考えているのか、という懸念が広がっています」と同紙のインタビューに答えている。政府がトランプ大統領の北朝鮮政策を支持する一方で、その刺激的な発言が日本を危険にさらしている……。日本はそんな「トリッキー」な状況にあると、NYTは表現している。

◆戦争はアメリカのアジア支配終焉に結びつく?
 リベラル派のムン・ジェイン政権下の韓国は、北朝鮮に対する軍事行動には消極的だと見られている。トランプ大統領の発言後、国家安全保障担当のアドバイザーが渡米して「アメリカは韓国に事前通告なしに行動することはない」ことを再確認したという。これを受け、韓国大統領府は「韓国とアメリカは共に、国民の安全を確実にするために段階的な方策を取り、お互いに密接に透明性を持って協力することを再確認した」というコメントを発表している。

 ドイツ、イギリス、フランスの欧州勢は、軍事的な解決には明確に反対している。ドイツのメルケル首相はトランプ氏と金正恩氏の言葉の応酬がエスカレートしていることについて、「間違った答えだ」と非難。「あらゆる非軍事的な解決」を支持すると語った。イギリスのグリーン筆頭国務大臣は米朝両国が戦争を回避することが、英国の国益だと明言。フランス政府は、「全ての関係国が責任を持って行動することを求める」とコメントしている。

 一方、オーストラリアのターンブル首相は、アメリカが攻撃されればアメリカ側につくと明言。オーストラリアと隣国のニュージーランドは、アメリカと日米安保条約に似たANZUS条約(太平洋安全保障条約)を結んでおり、国内メディアに向けてそれを実行する責務があることを強調した。対してロシアのラブロフ外相は、米韓合同軍事演習を中止する見返りとして北朝鮮に核開発を中止させるという、ロシアと中国が提唱する「スマート・プラン」で解決を図るべきだと主張した。

 戦争も辞さないスタンスの米日豪、外交的解決を支持する韓国と欧州勢、中立を装いつつアメリカの影響力を削ぐ機会をうかがう中ロと言ったところだろうか。元オーストラリア政府直属の防衛専門家、ヒュー・ホワイト氏は、「もし、アメリカが素早く完全勝利を果たせば中国にとっては大きな損失となる。しかし、アメリカ、韓国、日本にとってコストの大きい悲劇的な結果となれば、最終的にはアメリカのアジア支配の終わりに結びつくだろう。そして、後者の方が可能性は高い」と分析している(WP)。

Text by 内村 浩介