フィリピン上院で審議中の「フェイクニュース」取締法案 検閲に繋がる危険は?

niroworld / Shutterstock.com

著:Mong Palatino(元フィリピン下院議員)

 フィリピンのジョエル・ビリャヌエバ上院議員が「悪意を持って虚偽ニュースを流布すること」を犯罪とし取り締まる法案を提出した。メディア機関は法案が検閲に繋がると警鐘を鳴らしている。

 現在上院で審議されているビリャヌエバ氏の法案第1492号「An Act Penalizing the Malicious Distribution of False News and Other Related Violations (訳:虚偽ニュースの悪意ある流布及び関連する違反行為取締法) 」では、フェイクニュースを「パニックや分裂、混乱、暴動、憎悪を生み出すことを意図した虚偽のニュース、あるいはある人物の名声を傷つけるまたは評判を落とすことを目的としたプロパガンダを含む虚偽のニュース」と定義する。

 法案は「フェイクニュース」を発表した人物を罰するだけでなく、それをシェアした人物もまた処罰の対象としている。ソーシャルメディアのユーザーが友人と記事をシェアしただけで、何が問題なのかよくわからないまま犯罪者となってしまう可能性もあるということだ。

 今回提出された法案により科される量刑は、「フェイクニュース」に該当するニュースを発表または拡散した人物の立場で異なる。私人がフェイクニュースの発表または拡散の罪に問われた場合は5年以下の懲役となる可能性がある。公人の場合には私人の倍の量刑が科されることもある。そしてマスコミやソーシャルメディアプラットフォームがフェイクニュースを拡散した場合には、20年以下の懲役が科される可能性もある。

 ビリャヌエバ氏はこのような罰則を設けた背景を以下のように説明している。

 「フェイクニュースの影響を甘く見てはならない。フェイクニュースは虚偽の情報で印象と信念を作り上げ、それが分裂や誤解による争いを生み、深刻な対立関係をも助長しかねない。」

 さらにビリャヌエバ氏は、法案が可決されれば「フィリピンの国民、その中でも特に公人はニュースを作成、発表、シェアするに当たり、これまで以上に責任感を持ち、慎重な姿勢をとるようになるだろう」と言う。

 ジャーナリズム学を専門とするダニーロ・アラオ教授は4ページに渡る法案をレビューし次のような反論をまとめた

 「法案の第2章で規定する『フェイクニュースまたは虚偽の情報』の定義が漠然としすぎている。パニックや憎悪 (という明確な定義が難しいもの) の原因と見なせるものは多数あるが、これではほとんどすべてが該当してしまう…

 また法案第3条に基づき、メディアが検閲を受ける可能性がある。というのも公正な記録や調査に基づく情報であろうと、役人の名声を貶めると見なされれば『虚偽のニュース』として警告を発することができるからだ。」

 アラオ氏はまた役人について、彼らにはすでに規律があり、それを守ることを前提として行動しているため、特別法を制定する必要はないと反論した。

 Center for Media Freedom and Responsibilityの広報担当は、テレビ番組のインタビューで、フィリピンでは上院が問題として挙げている事項は名誉毀損法で対処できるため、法案は必要ないと発言した。

 ある下院議員は、フェイクニュースを取り締まるのではなく、議会は現在審議中の情報公開法案の採決を進めるべきと意見している。情報公開法を整備すれば、メディアやインターネットで虚偽の情報をシェアするという責任感の欠如も正すことができると言う。

 独立メディア機関のネットワークAlterMidyaは、ビリャヌエバ氏の法案を「表現の自由及び報道の自由を侵す一種の検閲に当たる無責任な施策であり、不要な上に危険な試み」だと非難した。

 「虚偽の情報といっても純粋にただの間違いによるものもあれば、悪意をもって広められるものもある。文書、テレビ、ラジオ放送、インターネット上で悪意の有無をどう区別するのか。

 フェイクニュース取締法が施行されたとしたら、政府に恣意的な権力を与えることになる。メディアがどのような情報を取り上げようと、それが政府の利益に反するものであればフェイクニュースと言い切ってしまえる。反対に個人あるいは政府系メディアの発表した情報が詐欺的な内容であったとしても、政府を支持するものであれば大々的に認めてしまえるし、他のいかなる措置も取れる。」

 ベテランジャーナリストのルイス・テオドロ氏は、フェイクニュースに対する取り組みとしてビリャヌエバ上院議員は取り締まりよりも適した方法があるのを忘れているのではないかと指摘した。

 「コミュニケートする権利を行使する時には説明責任が発生する。これが最も強制力を持つ手段だ。そしてそれは議会ではなく、情報を扱うメディア機関自身と市民が、フェイクニュースを見抜き、フェイクニュースの拡散を予防できるだけのメディアリテラシーと責任感を持つことで、力を発揮するのである。」

 フィリピンの新聞にコラムを寄稿する人気コラムニスト、ジェイラス・ボンドック氏は、フェイクニュース取締法案が採決された場合、批判的な意見を言う人を黙らせたい権力者により悪用される恐れがあると警告している。

 「この法案は悪用されやすい。偏狭な政権が取締法を使って反対意見を抑え込むことも可能だ。批判的な意見の発信者をフェイクニュース拡散の罪で起訴すれば、政権は真っ当な反対意見もねじ伏せてしまえる。不正など何もしていない内部告発者の勇気に罰金が科され、調査能力の高いジャーナリストは投獄されるかもしれない。」

 フィリピンの議会でフェイクニュースによる被害対策を目的とした法案が持ち上がったのは、今回が初めてではない。今年の始めには、下院議長が偽アカウントや嘘の情報の拡散防止に向けソーシャルメディア規制法案を提出したばかりだ。

This article was originally published on Global Voices. Read the original article.
Translated by t.sato via Conyac

Text by Global Voices