日欧EPA:「米国抜きの世界秩序が作られようとしている」米メディアが強い危機感

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 保護主義的政策のもとでTPPを脱退したアメリカだが、米国内メディアからはトランプ大統領が取り続けている反自由貿易の姿勢によって、国際的なアメリカの立場が脅かされているのではないかという声が上がっている。この声を表面化させたのが7月6日夜に行われた日欧EPA交渉の大枠合意だ。

◆アメリカ抜きでも世界は回る
 日本とEUのEPA交渉は4年前から続けられており、今回、やっと合意に漕ぎつけたもの。このタイミングでの大枠合意は、世界各国のリーダーたちに自由貿易推進への強いメッセージを発信した。もちろん、大きな反応を見せたのはトランプ大統領の下で保護主義を通しているアメリカの各メディアだ。

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は社説で、「トランプ氏は、環太平洋経済連携協定(TPP)から脱退し、EUとの環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)の交渉を中断している。米国が参加しようがしまいが、世界中で貿易は続く。米国がTPPにとどまっていれば、米国の農家や輸出業者は日本への販売増加を享受できた可能性があるが、そのチャンスは今や欧州に与えられている」と書いた。アメリカ抜きでも世界は回っており、チャンスを放棄するなら他国が喜んで持っていく、ということだ。

◆“世界のリーダー、アメリカ”の座を奪う基礎を作った日欧EPA
 また、ニューヨークタイムズ紙も同様に、世界貿易の舞台で中心的存在であるアメリカは自身がずっと中心だと考えていたようだが、「(アメリカ以外の)世界は他に考えがあったようだ」、「トランプ氏が国際通商の真価を認めるまで、他の国が待つことはない。アメリカ抜きで自分たちの仕事をするだけだ」として、アメリカの世界舞台での立ち位置を危惧し、トランプ政権の政策を批判している。同紙はG20の記事でもアメリカの立場を「孤立」という言葉で表現するなど、世界の動きから一人外れるアメリカの姿を報道している。

 ニュース解説メディアの『VOX』に至っては、「Japan and Europe have a pointed message for the US: We’re taking your place as global leaders in free trade.」(日本と欧州はアメリカへメッセージを発信した:自由貿易の分野のリーダーとしてのあなたの地位は私たちがいただきます)」というかなりセンセーショナルな書き出しの記事を掲載。この日欧EPAは今後の貿易に関わる各国の動きの基礎を作ったのではないかとしている。

◆どうする?今後のアメリカ
 日欧EPAが見せた“アメリカ抜き”という新しい形は、アメリカ政府が現在の保護主義的政策を続ける限り、各国政府の選択肢として挙がるだろう。アメリカが不参加としたTPPも11ヶ国のまま発効させる動きがある。
貿易上の鎖国のようなトランプ大統領の政策は、本当に米国民にとって有利なのだろうか? 日米EPAという警鐘が鳴らされた今、 見直す時期に入っているのではないかと米メディアは訴える。

Text by 西尾裕美