英爆破テロが示すテロリストの新たな標的 行動パターンに3つの重要な変化

 22日にイギリスのマンチェスターで起きたコンサート会場を狙った自爆テロは、22人が死亡、59人がけがをする大惨事となった。容疑者は、地元出身のリビア系イギリス人ですでに死亡しており、イスラム国(IS)が犯行声明を出している。この事件も含め、警備の厳しい場所を避け、一般市民の集まる「ソフトターゲット」が狙われるのが最近のテロの傾向で、今後のセキュリティ対策の難しさが浮き彫りとなった。

◆テロのやり方に大きな変化が。ISは軍事訓練よりネット
 米公共放送PBSのインタビューに答えた米国家テロ対策センターの元ディレクター、マイケル・ライター氏は、ISによるテロは2000年代後半とはかなり違ったものになっていると述べる。ISの犯行には明らかなパターンがあり、3つの重要な変化がみられるという。

 一つ目は、ネットを効果的に使って、これまでにないペースと規模の過激化が進んでいることだ。同氏はNBCニュースのインタビューで、容疑者が大量の死傷者を出せる爆破装置の作り方を知っていたに違いないとし、わざわざシリアまで行かなくても、そのような情報はネットで得ることができると指摘している。米国土安全保障省の元対テロコーディネーター、ジョン・コーエン氏も、ISやアラビア半島のアルカイダなどがネットやソーシャルメディアでフォロワーに思想を吹き込み、そのような軍事訓練を受けていない者に武器を持たせ、不特定多数の人を殺傷するために、公共の場に乗り込ませる戦略にシフトしたと見ている(米ABC)。

 二つ目の変化は、大型の攻撃を仕掛けるよりも、テロ実行者の地元での犯行を積極的に求めている点だ。ジョージワシントン大学で過激思想を研究するアレキサンダー・メレグルー=ヒッチェンス氏は、マンチェスターのテロの容疑者は地元で最も治安の悪いモスサイド出身だと指摘する。ここではもともとあった非行・犯罪集団の文化とジハーディスト文化が結合し、テロリストをリクルートする上でのハブになっていると同氏は述べ、容疑者がテロの大きなネットワークの影響を受けていてもおかしくはないとしている(PBS)。

 最後にあげられる変化は、英MI5や米FBIなどの保安局にとってテロの脅威が対処し難い量になっていることだ。特定のターゲットに無期限に張り付いている訳にもいかず、結果として事件を防げない判断ミスにつながることもあるとライター氏は指摘している。

◆安全対策の強化で別の場所が危険に
 フォーダム大学法科大学院のカレン・グリーンバーグ氏は、これまでのテロ事件を受けて、狙われると考えられる場所の安全対策が進んだことにより、従来重要視されていなかった場所に標的が置き換えられたと説明する(ABC)。このところのテロの傾向について多くの識者が指摘しているのは、標的がコンサート会場、交通の要衝、ホテル、ショッピングモール、スポーツ施設などの「ソフトターゲット」と呼ばれる場所にシフトしていることだ。こういった場所で警備を手厚くすることはその存在意義を台無しにしてしまうことから、非常に難しいとコーエン氏もABCに指摘している。

 警備の隙間をうまく狙うのも最近の傾向だ。マンチェスターの場合は、セキュリティチェックを回避できる出口近くで、イベント終了後の観客を狙った爆破テロだった。昨年のトルコの空港でのテロは、爆発がターミナルビルの入り口で起こっており、ブリュッセルの空港で起こった爆弾テロの一つも、セキュリティチェック前のチェックインエリアでのものだったとNBCは指摘する。テロリストは、セキュリティの境界がどこにあるのかを認識しており、その境界の外であっても多くの人々が集まる場所を狙っているとライター氏は述べている(NBC)。

◆市民ができるテロ対策。恐れるより安全確保への協力を
 グリーンバーグ氏は、人々の生活の場であるソフトターゲットへの攻撃は、安心感を恐怖に変えるという点で非常に効果的だと指摘し、テロリストのゴールは、人々の生活における安らぎを攻撃することだと述べる(ABC)。

 このようなテロに対して市民も備えなければならない、とコーエン氏は主張する。すべてのソフトターゲットで安全対策をするのは不可能なため、テロを未然に防ぐためにも、自分のコミュニティにテロリストになりそうな人物がいないかどうか注意することが必要だと述べる。また、テロを恐れ標的となりそうな場所を避けるのではなく、普段通りの生活を心がけつつ、不審な物を見つけたらすぐに通報するようにとアドバイスしている(ABC)。

Text by 山川 真智子