なぜ中国は北朝鮮からの石炭輸入を停止したのか 変わりつつある中朝関係

 18日、中国は北朝鮮からの石炭輸入を今年いっぱい停止すると発表した。石炭は北朝鮮の輸出の3分の1を占めており、この禁輸措置でGDPの5%に当たる約10億ドル(約1130億円)が吹き飛ぶだけに、北朝鮮には非常に厳しい制裁となる。度重なるミサイル発射と核実験にもかかわらず、これまで一貫して北朝鮮擁護の立場をとり、制裁にも消極的だった中国が、ついに中朝関係を見直すのだろうか?

◆いうことを聞かない北朝鮮。中国の我慢も限界か?
 金正恩氏は政権の座について以来、中国が核開発に反対しているにもかかわらず、核実験とミサイル発射をこれまでにない頻度で行っている。金正男氏暗殺の前日で、安倍首相が訪米中の12日にも、日本海にミサイルを発射した。

 中国の外交政策アドバイザーで南京大学教授の朱鋒氏は、これまで中国は北朝鮮と兄弟関係にあったが、金正恩政権は中国の国益になることを全くしたことがなく、いまや中国の忍耐力は尽きつつあると述べる(ニューヨーカー誌)。ロイターは、核開発問題を平和的に解決しようとしない金正恩氏の態度に中国はすっかり嫌気がさしてしまっている、という中国の北朝鮮専門家の言葉を紹介した。フォーブス誌も、リスクやコストが高まる中、60年間続いた中朝の友好関係を中国が考え直すことが予測されると述べ、両国の関係は続くものの国際社会とうまく付き合うため、中国は距離を置くだろうとしている。

◆北崩壊は、中国にとっての悪夢。簡単には潰せない
 今回の石炭輸入停止措置で、中国は北朝鮮に見切りをつけたという見方もあるが、多くのメディアは、中国が北朝鮮を切ることはないと述べる。ロイターは、もし中国が北朝鮮との貿易を停止し、すべてのライフラインを絶ってしまえば、崩壊させることは容易だと述べる。だが、その結果、中国には大量の難民が流れ込み大混乱となるため、それを中国が望むはずはない。また、ニューヨーカー誌が指摘するように、何万人もの米兵を置く韓国によって南北朝鮮が統一されれば、国境を接する中国にとっては安全保障上の悪夢となってしまう。

 さらにロイターは、「金正恩をおとなしくさせるためにはアメとムチが必要だが、叩きすぎると報復してくる」というある消息筋の言葉に言及し、中国が慎重な態度を取らなければ、アメリカとその同盟国に向けられるはずのミサイルのターゲットが中国になる可能性もあると指摘している。

◆制裁は批判回避のため。アメリカに問題を託すのか?
 韓国などでは、石炭輸入停止には金正男氏暗殺も影響したという見方もあるようだが、中国は暗殺が北朝鮮によって行われたという見解は示しておらず、あくまでも国連安保理の制裁を履行するためとしている。

 戦略国際問題研究所の中国専門家、ボニー・グレーザー氏は、今回の制裁は、これまで北朝鮮に甘いと中国を批判してきたアメリカをなだめるためだと見ている。政権の不安定化や崩壊は回避して何とか北朝鮮の非核化を進めたい中国は、北朝鮮との話し合いが必要だと主張しており、ピーターソン国際経済研究所のステファン・ハガード氏は、トランプ政権に協力的な態度を示すことで、その見返りとして交渉のイニシアチブをアメリカに取ってもらおうとしているのではないかと述べている(フィナンシャル・タイムズ紙)。

 ニューヨーカー誌は、中国だけが北朝鮮問題で影響力を行使できると言われるのに飽き飽きしており、石炭輸入停止によって、「我々の仕事は終わったから、後は任せる」というのが中国の態度で、北朝鮮問題をアメリカに渡したがっているかのようだという識者の言葉を紹介している。

◆北の崩壊は時間の問題。中国も準備
 北朝鮮崩壊を望まない中国だが、実はその時がくる準備もしているようだ。サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙によれば、中国国防相の報道官は、金正男氏暗殺事件後、中国軍が中朝国境に部隊を派遣したというニュースを否定したが、「安全保障上の環境において生じるニーズに従い、中国軍は国家の安全と主権を守るために必要な手段を講じる」と述べ、北朝鮮崩壊の際には、軍隊の投入があることを認めた。

 南京大学の朱氏は、「政権交代と朝鮮半島の統一は明らか」で、遅かれ早かれその時はやって来ると述べる。ただし、中国の外交政策コミュニティでは北朝鮮問題ほど意見が分かれるものはないとし、中国が歴史の正しい側に立つことを選ぶかどうかが、問題だとしている(ニューヨーカー誌)。

Text by 山川 真智子