英国のモスク150箇所以上が開放 最多の参加者、広がる対話“コンクリートより紅茶”

 米トランプ大統領が1月27日に出した中東・アフリカ7ヶ国の国民の入国を一時禁止する大統領令は、禁止対象となったのが主にイスラム教徒が多い国々だったことから、俗に「ムスリム(イスラム教徒)入国禁止令」と呼ばれている。さらに1月29日には、カナダのケベック市にあるモスクでイスラム教徒に対するテロ攻撃が起こった。こうしてイスラム教徒を取り巻く環境が北米で悪化する中、イギリスでは150以上のモスクが参加する「オープン・モスク・デー」(モスク開放日)が開催され、このような時こそ連帯を示そうと、多くの人で賑わった。

◆背景は広がるイスラム嫌悪
 2016年末にニューヨーク・タイムズ紙が掲載した記事によると、アメリカでの「ヘイト犯罪」に関する統計を出している米連邦捜査局(FBI)から2016年の正確な数字はまだ出ていないものの、トランプ氏が大統領選に勝利して以来、アメリカではイスラム教徒に対する嫌がらせ行為が増加している。アメリカで人種差別などに対する抗議や啓蒙を行う非営利団体・南部貧困法律センターが2016年12月16日に発表した数値によると、トランプ氏が当選した翌日の2016年11月9日から12月12日までの期間中、イスラム教徒に対する嫌がらせ行為が1094件報告された。センターによるとこれは異常な多さで、通常の半年相当の件数を上回るという。

 イギリスでは、2016年のブレグジット(欧州連合からの離脱)決定後にイスラム教徒や外国人に対する嫌がらせが際立って増加した(タイム誌)。

◆モスク開放日、過去最高の人出
 イギリスで2月5日に行われたイベント「Visit My Mosque」(うちのモスクにおいで)は、イスラム教徒に対するこうした偏見や憎悪の高まりに対抗するもの。「壁もないしビザも不要。誰でもウェルカム」とのキャッチコピーとともに、イスラム教をより知ってもらおうと全国150ヶ所以上のモスクが地元住民に門戸を開いた。主催者の英国イスラム評議会の発表によると、2015年2月に始まったオープン・モスク・デーは今年で3回目だが、参加モスク数も参加者数も過去最多となった。

 アルジャジーラ(英語版)によると、どの宗教を信じていても、もしくは宗教を信じない人でも「オープン・モスク・デー」に参加でき、「禁句」はなく参加者はどんな質問をしてもいいとされた。イギリス第2の都市バーミンガムのとあるモスクでは、イスラム法とはどんなものか、イスラム教徒はキリスト教のイエスにどういった考えを持っているのか、そしていわゆる「イスラム国」(ISIS)に対抗するためにモスクは何をしているのか、といった内容を中心に質疑応答がなされたという。

 英国イスラム評議会のアドリース・シャリーフ氏はアルジャジーラに対し、イベントの狙いは、イスラム教徒と地域社会の結びつきの強化であり、「議論ではなく対話を作りたい。議論だとどうしても勝つことを目的にしてしまうが、対話の場合、信念を共有し合うものだから」と話したという。

◆「壁を作るより一緒に紅茶を」
 ガーディアン紙によると、ロンドン北部のフィンズベリー・パーク・モスクでは、イスラム教に関する質問を受け付けたり、ヒジャブの試着ができたり、紅茶やコーヒーが無料で振る舞われたりした。さらに、コーランや飴、そして友情のシンボルである赤いバラが入ったお土産袋が参加者に手渡された。

 このモスクを訪れた労働党のジェレミー・コービン党首は、ケベックで起きた事件に触れながら、一部の人がイスラム教を悪者にしていると指摘。「これは大西洋の向こう側にいる、ある男性への穏やかなメッセージ」とした上で、「お互いを引き離すための壁を作るコンクリートを注ぐより、一緒に紅茶を飲んだ方がよっぽど効果的」と、トランプ氏の政策を当てこすった。

Photo via Visit My Mosque

Text by 松丸 さとみ