トランプ氏の「ファースト・ドッグ」が騒がれるのはなぜ? 国のリーダーとペットの関係

 来年1月の就任を控え、すでに積極的な政治・外交活動をする次期大統領のドナルド・トランプ氏。その発言や重要なポストへの人材起用によって今後の政策をうらなう報道がいまも盛んだ。そんな中、ある犬の話題がワシントンポスト紙で報じられた。海外メディアでは動物と要人との関係についての報道はめずらしくない。しかし日本で言うところの「癒し」や「笑い」を取るものとはちがう。その人物を知るための手段にもなっている。

◆トランプ家にとって初のペット?
 例えば、トランプ家は世間で知られている限りペットを飼っていないというのだ。この150年で初のペットを持たない大統領の誕生ともささやかれている。アメリカ人は犬好きという印象があるが、個人の嗜好の問題だけではなく、歴史のひとつを変えるかもしれない事実でもある。

 そしてこの犬の名前の由来がまたおもしろい。犬種はゴールデンドゥードルで名前はパットンという。第二世界大戦の米軍の名将パットン将軍にちなんで名づけられた。トランプ氏にパットンを紹介したのは、育ての親で名づけ親でもあるトランプ氏の支持者のポープ氏。サンクスギビングのイベントの後、トランプ氏の別荘マー・ア・ラゴで、生後9ヶ月のパットンの写真を氏に見せたという。「息子に見せてみよう。きっと気に入るよ」と言ったのはトランプ氏だったと彼女は証言する。

 そして10歳のバロン君は満面の笑みを見せてしまった。それで「ファースト・ドック誕生」の話題にまで発展した。ファーストレディは大統領の夫人、なので”大統領の犬”という意味になるだろう。”トランプ家のはじめての犬”ともとれる。

 しかし、その後、トランプ氏の報道担当者・ホープ・ヒックス氏からは具体的なアナウンスは一切ない。それでもポープ氏は、パットンがホワイトハウスへの道を歩むものと信じている。その理由は、歴代大統領の全員ではないが、多くの大統領がホワイトハウスで犬を飼っていたからだ。クリントン元大統領は、バディと名付けられたラブラドールとソックスという名の猫。オバマ大統領は、「商務長官を選ぶより考えさせられた」と、ポルトガル・ウォーター・ドックのボーについてジョークを言ったほどだ(WP)。

◆公邸に暮らさない総理とその理由
 国のリーダーと犬といえば、我が国の安倍首相もその例にもれず犬好きという説がある。 安倍首相は今も首相公邸は短期の滞在にとどめ、富ヶ谷の私邸から国会まで通勤しているが、公邸を使わない理由のひとつとして、愛犬ロイ(ミニチュアダックス)のためという見方もあるほどだ(ハフィントンポスト)。

 その安倍首相だが、英紙テレグラフによると、今月16日の日露首脳会談を前に、政府として秋田犬をロシア・プーチン大統領にプレゼントしようとしていた。プーチン大統領もまた犬好き。2012年に東日本大震災への支援のお礼として秋田犬「Yume(夢)」が贈られた。

 今月12日、日本のテレビ局と新聞社が大統領府に訪日前のインタビューに訪れた際、4歳になったその犬が突然披露された。緊張して吠える犬に、取材スタッフたちは退いてしまったようだ。また、2007年にもドイツのメルケル首相との会談の後、コニーという名の黒いラブラドールを連れ出した。メルケル首相としては心地よくはなかっただろう。「脅すためではなかった」と大統領は後に述べている(CNN)。

 そして日本政府が日露首脳会談前に贈ろうとした犬種もまたYumeと同じ秋田犬。しかしロシアはその申し出を断ったと言う。その理由と首脳会談への影響は日本政府からは伝えられていない(テレグラフ)。

 実はプーチン大統領は犬どころか大の動物好きなのだ。馬に乗り、イルカと泳ぎ、ヒョウを抱きしめる写真などが紙面を飾ることも。2014年のブリスベン・サミットではオーストラリアのトニー・アボット首相(当時)とコアラを抱いてにっこり。2010年にはブルガリアの首相からビューティーという名の羊も贈られた(テレグラフ)。日本政府の秋田犬のプレゼントでは、求心力が足りなかったのかもしれない。

 海外のメディアでは、政治家がペットとたわむれる場面がよく報道される。習慣の違いもあるが、それを報道し、その人となりをあらゆる角度から語ろうとするジャーナリズム精神もあるようだ。

 犬好きが多いアメリカの歴代大統領、ペットを飼っていない(パットンを飼うことになるかもしれない)次期大統領のトランプ氏、そして公の場でも動物好きを隠さないプーチン大統領、それぞれの個性が見えてくる。来年のトランプ氏の就任以降、犬のパットンについての報道にも注目したい。

Text by 沢葦夫