異色の候補者サンダース氏がもたらしたものとは? たとえ敗れても消えない大きな功績

 5日に行われた米大統領選のウィスコンシン州民主党予備選で、バーニー・サンダース氏が勝利した。現在6連勝と、しぶとくヒラリー・クリントン氏を追うものの、指名獲得はほぼ無理という見方が優勢だ。社会主義を打ち出し、驚くべき人気を得た異色の候補がもたらしたものについて、米メディアが考察をめぐらせている。

◆指名獲得は困難も、勢いは強い
 政治紙The Hillは、サンダース氏はクリントン氏に10万票以上の差をつけてウィスコンシン州で勝利したが、獲得代議員数という点から見れば、控えめな成功だと述べる。同紙は、予備選、党員集会で獲得した代議員はクリントン氏が1279、サンダース氏が1027だが、特別代議員(予備選、党員集会の結果にかかわらず自由に投票できる代議員)を合わせるとクリントン氏が1748、サンダース氏1058というAPの数字を紹介し、大票田である19日のニューヨーク州予備選で、サンダース氏が大差で勝利して流れを変えない限り、クリントン氏の優位は揺るがないと見ている。

 もっとも米CBSによれば、3月29日から31日にかけて行われたMcClatchy-Maristによる世論調査では、サンダース氏支持は49ポイント、クリントン氏支持が47ポイントとなり、サンダース氏が2ポイント差で優位に立っている。昨年11月の同じ調査では、クリントン氏が22ポイント差をつけ圧倒的支持を得ていたことから考えれば、勢いがあるのは明らかにサンダース氏の方だ。

◆民主党をうまく利用
 ブルームバーグ・ビューのコラムニスト、アルバート・R・ハント氏が、サンダース氏の明確で筋の通った選挙運動は、その考え方に強く異を唱える者をも驚かせたと述べているように、社会主義者として登場し、熱烈な支持者からの小口の寄付金だけに頼って圧倒的強さを誇るクリントン氏に食い下がるサンダース氏は、これまでの選挙のあり方を変えてしまったと言える。

 特に、今回の選挙戦でサンダース氏の大きな功績として上げられるのは、民主党も共和党も支持しない無党派層を動かしたことだろう。ワシントン・ポスト紙(WP)によれば、出口調査の結果、アラバマ、アーカンソー、マサチューセッツなどのいくつかの州では、サンダース氏を支持する有権者の45%は無党派であり、ほとんどの州でも、少なくともサンダース氏に票を投じた人の3分の1が、無党派だとされている。

 民主党から出馬した理由はメディア報道を得るためだとサンダース氏は最近語っており(WP)、自らの主張を広めるために民主党を利用したとも言える。この作戦は成功していると見るWPは、民主党トップランナーのクリントン氏が無党派の強い支持を受ける、本来民主党候補と言えるかどうか分からないサンダース氏と戦うはめになっているとし、そのことを有権者は気にしているようには見えないと述べている。

◆大統領選後の影響力に期待
 前述のハント氏は、もう一つのサンダースの功績として、TPPに反対したり、ウォール街を激しく攻撃することで、クリントン氏を左寄りにしたことだとする。同氏は、サンダース氏の選挙運動によって、クリントン氏が大統領になっても、ウォール街優遇、政治と金の問題といった課題に取り組まざるを得なくなった、と述べている。

 また、若者を政治に引き付けた功績は大きい。最新のMcClatchy-Maristによる世論調査では、サンダース氏は30歳以下の民主党有権者には76%と圧倒的な支持を受けている。問題は政治的エネルギーを得た若者たちを、サンダース氏が保つことができるかどうかだが、ウェイク・フォレスト大学の政治学者、ケイティ・ハリガー氏は、選挙運動資金調達、経済的格差といった問題で、サンダース氏は若者を結集させることができるだろうと指摘する。今後他の主要な選挙でも、若者の投票が続くかもしれないと同氏は見ている(ブルームバーグ・ビュー)。

 ほぼ50年間変わらず左を標榜するサンダース氏は、小さな活動から始め、今や全米に声を伝える存在となった。200万人を超える寄付者を持ち、そのフェイスブックには400万人が「いいね!」をしたという。今日の政治では、これはすごい組織力だと述べるハント氏は、選挙戦後も、サンダース氏とその支持者が消えることはないだろうとしている。

Text by 山川 真智子