イギリスはEU離脱すべきか?残留すべきか? 世論拮抗、大手紙でも賛否分かれる

 イギリスのキャメロン首相が6月23日に、EU離脱の是非を問う、国民投票を実施すると発表した。厳しいEUのルールから解放され独自の道を行くのか、それともこれ以上の統合を求めないことを条件に残留すべきなのか。英大手紙の識者が、それぞれの考えを示している。

◆首相は残留希望。世論は賛否が分かれる
 キャメロン首相がEU離脱を問う国民投票を約束したのは、2013年。ただし保守党が2015年の選挙で勝利すればという条件付きだったが、大方の予想に反して保守党は絶対多数を獲得して大勝し、国民投票実施が現実のものとなった(フィナンシャル・タイムズ紙、以下FT)。

 キャメロン首相はEU残留を希望している。すでに残留のための改革案についてEUと大筋合意しており、「チョイスはあなた方の手の中にあるが、私の勧めるところは明白だ。改革されたEUにおいて、イギリスはより安全、より強く、より豊かになると信じる」と国民にメッセージを送っている。FT『Poll of Polls』の2月20日の世論調査では、残留が43%、離脱が40%と拮抗している。

◆もはや互いのニーズは合わない
 離脱を支持するテレグラフ紙のコラムニスト、ティム・スタンレー氏は、キャメロン首相とEUの合意は弱すぎて話にならないと一蹴する。もともと首相は残留希望で、交渉の席で皆が「はったり」だと分かっているなか、強い主張ができたはずがなく、イギリスが「特別な地位」をヨーロッパで得るなど幻想だ、と皮肉る。

 オランド仏大統領は、「基本原則に基づきイギリスをEUに留まらせよう」と述べるが、その「基本原則」の書き換えはないとEUは明白にしており、1国だけに独自の統合の程度を選ばせれば、皆がそうしたがると同氏は指摘。そんなEUの存続を脅かすかもしれないかなりの改革など、キャメロン首相に与えられたはずはなかっただろうと断じる。

 イギリスが望むのは単一市場における緩い同盟だが、他の欧州諸国は単一国家を望んでおり、イギリスとヨーロッパのニーズが合わなくなった今こそ離脱の時だと同氏は主張している。

 一方、ガーディアン紙のコラムニスト、ティモシー・ガートン・アッシュ氏は、イギリスが当分これ以上の統合は望まないことをEUは受け入れたとし、「どちらにとってもベスト」があるなら、これがまさにそうだとし、離脱はすべきではないと述べる。同氏は、EUは変われると考えており、加盟国内にも改革に前向きな声が出てきていると指摘。イギリスが残留すれば、改革のロビー活動は強まるが、離脱すれば弱まると述べている。

◆先の見えない離脱よりも現状維持
 FTのチーフ・ポリティカル・コメンテーター、フィリップ・ステファンズ氏は離脱に反対だ。国民投票キャンペーンは、国際主義に対する国内主義、政治の本流に対するポピュリズム、そして世界の現実に対する終わった時代への郷愁だとし、残留でイギリスがよくなるという首相に反対する人々は、隣国にバリケードを張り、世界と独自の関係を築く勇気あるイギリスを想像していると述べる。

 同氏は、経済の相互依存は現代社会の事実の一つだと説き、仕事や生活水準は、EU市場へのイギリスのアクセスに頼っているという立場だ。安全保障においても、NATOだけでは不十分で、テロやロシアのプーチン首相への対応についても、EUとの国際協力が必要だと主張する。

 反移民を離脱運動の答に上げる離脱派は多いが、EUに住む5億人の住民がみなイギリスを目指す訳ではなく、自由貿易と自由な移動は密接な関係があるという現実への答を持ち合わせていないと同氏は指摘する。また、離脱後の貿易条件を明確にできる人もだれもいないと述べ、イギリス人は「暗やみに飛び込むことよりも現状維持」を、「まだ知らぬリスクよりも居心地の悪い欧州」を選択するだろうと予測。投票では残留派が勝利するだろうと述べている。

Text by 山川 真智子