航行の自由作戦、豪も参加か? 米軍・議会は強化の意向 中国には「侵入させるな」の声も

 米海軍は30日、南シナ海で、昨年10月以来3ヶ月ぶりに「航行の自由」作戦を実施した。米国防総省が同日発表した。前回はスプラトリー(南沙)諸島の、中国が埋め立て、建設を進める人工島の周辺で実施されたが、今回はパラセル(西沙)諸島の島の周辺で実施された。この作戦は、現状、中国に対してどのような影響を与えているだろうか。また今後はどのように展開していくだろうか。

◆アメリカは南シナ海での軍艦の「無害通航権」を妨げるなとの主張?
 今回、米海軍が作戦を実施したのは、パラセル諸島のトリトン(中建)島の周辺海域である。この島を含め、パラセル諸島は中国、ベトナム、台湾がともに領有権を主張しているが、1974年以降、中国が実効支配している。今回、アメリカ側はこの3国に事前通告することなく、島の周囲12カイリ以内に海軍のイージス駆逐艦を航行させた。

 前回の作戦は、中国が岩礁を埋め立てて造成した人工島の周辺で実施された。この岩礁はもともと満潮時に水没する「低潮高地」で、この人工島は国連海洋法条約では島として認められず、周囲12カイリの領海も設定されない。アメリカ側は、ここが航行自由な海域であることを明示するために前回の作戦を行った。

 自然島が対象の今回の作戦のポイントは、国連海洋法条約で定められている「無害通航権」である。その領海を有する国の平和、秩序、安全を害しない通航であれば、事前に通告することなく、船舶は自由に通航できる。海洋法上は軍艦であっても認められるものだが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、中国、ベトナム、台湾はいずれも、軍艦に対しては、事前に承認を得ることや通告することを求めているという。

 アメリカが問題視したのはその点で、米国防総省の報道官は発表で、「われわれはこの作戦行動で、領有権を主張する3国の、航行の権利と自由を制限しようとする企てに対し異を唱えた」と語った(ロイター)。極めて重大な南シナ海の海路は、国際水域として扱うべきだとのアメリカの立場を示した、とロイターは伝えている。報道官は、今回の作戦は、領海内の通過に事前の承認あるいは通知を必要とするという政策に対し、異を唱えることを試みたものだった、と語ったとのことだ。なお、ベトナムは31日、「国際法に基づく『無害通航』の権利を尊重する」との声明を出した(読売新聞)。

 一方で、報道官は、南シナ海の自然の地形(岩礁、島など)の領有権問題に関しては、アメリカはいかなる立場も取らないと明言している。これは、作戦は文字どおり「航行の自由」が目的であると強調するものだろう。

◆アメリカの「挑発」にも、中国政府の対応は抑制的?
 中国側は当然反発した。ロイターによると、中国外交部は「米軍艦は事前の承認なしに中国の領海内に侵入し、中国の関連する法律を侵害した」と発表した。また中国国防部は、アメリカの行動を「故意に挑発的」、「無責任で極めて危険」と評した。

 中国政府はアメリカを非難したが、中国国内には、アメリカがこのような行動をさらに取ることを思いとどまらせるには、非難だけでは十分ではないと考えている者たちがいる、とサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙(SCMP)は語る。中国政府により強硬な対応を取るよう求める中国人民解放軍元大佐の見解を紹介している。「領海」に侵入した後に警告して追い払うのではなく、レーダーや人工衛星を使用して動きを早めにつかみ、侵入を防ぐべきだ、という考えのようだ。「アメリカは挑発を強めており、中国の領土を守る能力に対して挑戦している」「中国政府が対応を強化しなければ、おそらく今後もさらなる挑発がある。中国の国民感情が高まり、政府が対処するのが困難になるだろう」と語っている。

 一方、中国軍備管理軍縮協会(CACDA)の上席研究員の徐光裕・元少将は、中国政府はアメリカと正面切っての対立姿勢を取らないだろうと推測している。「中国は依然として、国際社会において理性的とみられることを求めている。アメリカと衝突することは中国にとって利益とならない」。だが、南シナ海での建設と、その新たな飛行場での軍用機の試験飛行の実施を早める可能性はある、と語っている。

◆米議会でも「航行の自由」作戦の継続的実施を求める声が
 今回の作戦が実施される直前の27日、米太平洋軍ハリス司令官は米戦略国際問題研究所(CSIS)での講演で、「航行の自由」作戦の将来像について語っていた。ディプロマットが伝えている。

 ハリス司令官は、今後、作戦の回数が増えるだけでなく、より広い範囲をカバーし、より複雑になると考えてよい、と語っていたそうだ。

 米軍は作戦の実施に前向きだったが、ロイターによると、米議会でも作戦の積極的実施を求める声があるそうだ。今回の作戦が行われる前には、米議会で、オバマ政権に対して、昨年10月の作戦に引き続いて行うよう要求があった、とロイターは伝えている。今月、米上院軍事委員会のマケイン委員長が、オバマ大統領は「航行の自由」作戦のさらなる実施を先延ばししているとして非難したそうだ。

 マケイン委員長は「私はこれらの作戦行動が日常的に行われるようになって、中国と他の権利主張国がこれらを普通の出来事として受け入れるようになり、(自分が)それらを称賛するために報道声明を発表することがもはや必要ではなくなることを、引き続き期待する」と声明で語っていた。

◆オーストラリアも「航行の自由」作戦に乗り出す可能性が?
 ディプロマットは、前回の作戦以来、多くの人が、作戦の将来像についてあれこれと考えている、と語る。どの場所で実施される可能性があるか、また日本、オーストラリアといった他の同盟国、友好国との共同実施を開始する可能性があるかなどについてである。

 オーストラリアン紙は、オーストラリアのペイン国防相の声明などをヒントに、オーストラリアも同様の作戦を実施しそうだ、との推測を語っている。ペイン国防相は31日、アメリカが行った今回の作戦を支持する声明を発表した。南シナ海の航行の自由は、オーストラリアにとって国益だとの旨を語っている。

 昨年10月の作戦実施の際にも、ペイン国防相は支持する声明を発表していた。今回の声明は、その時の声明の文言を繰り返したものだが、極めて重大な違いがあった、と同紙は語っている。それは、今回は「われわれが何十年間もそうしてきたとおり、オーストラリアの艦船と航空機は国際法に基づき、南シナ海を含め、航海・飛行の自由の権利を今後も引き続き行使する」と述べていた点だ。

 背景としてオーストラリアン紙は、オーストラリアの艦船と航空機は、中国が領有権を主張し、外国船、航空機の存在がたびたび中国の抗議を引き起こしている海域のより近いところを、意図的に航行、飛行し続けている、と伝えている。それが12カイリ以内に進展する、ということを記事はにおわせている。

 またペイン国防相は、前回の声明では含まれていた、オーストラリアは目下の活動に関与していないという部分を、今回は省いていたそうである。

 こういった点や国内情勢を勘案して、記事は、オーストラリア艦船が(数ヶ月以内に)「航行の自由」作戦を行うことは、少なくとも五分五分だろう、と結論している。

Text by 田所秀徳