10年で中国人5倍、米大学の留学生が過去最多…地元で賛否 一方、日本人は半減

 米国の大学で学ぶ外国人留学生の数が過去最多となっている。留学生受け入れはビジネスだ、留学生が地元の学生の入学枠を奪っている、などの批判もあるが、アメリカ人学生に他国の文化や考え方に触れる機会を与えるというプラスの側面も指摘されている。グローバル化に伴う大学の課題を、米メディアが考察している。

◆全米の留学生数過去最高に
「国際教育協会(IIE)」によれば、2014-2015年度に米国の大学(修士、博士課程も含む)で学んだ外国人留学生は、97万4,926人で過去最多となり、前年度に比べ10%の増加だった。留学生のうち、中国人は30万4,040人で全体の3分の1を占め、10年前に比べてほぼ5倍と著しい伸びを示した。中国に次いで多いのは、インドの13万2,888人、韓国の6万3,710人だった。日本人留学生はわずか1万9,000人で、10年前の半分以下だった。

 留学生増加の理由として、IIEのトップ、アラン・グッドマン氏は、中国、インドなどの新興国におけるミドルクラスの増加を上げる。彼らは子供を米国に進学させるだけの経済力があり、平均的なアメリカ人よりもずっと教育に価値を見出している。このような親たちは、教育に金をかけることは、大型の消費支出だと捉えており、「家や消費財に金をつぎ込むのではなく、次の世代の教育に投資する」という考えだと同氏は指摘する(アトランティック誌)。

◆州の学生が締め出される?
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、留学生の増加を快く思わない人々がいることを報じている。カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)には何千人もの中国人留学生が在籍。州立大学であるUCSDは、州外出身者には3倍の学費を課しているため、大学側はより儲かる外国人を優先しているという批判がある。UCSDでは、2006年には46%だった州民の合格率は昨年30%に低下。外国人留学生の合格率は37%から39%と小幅上昇だったが、数自体は437人から3,382人と大幅アップしており、不合格となった州出身者の親からは、何十年も州税を支払ってきたのに入学枠を外国人に取られるのは不公平だ、と不満が噴出している。

 UCSD側は、地元学生の合格率低下は、州補助金の削減と志願者の急増に起因すると主張。UCの学生一人当たりの公的支出は、15年前の半分以下になっており、学費の値上げは反対運動が起こり凍結中。コストカットも容易ではなく、USCDの広報担当者は「州外からの学生が、州出身の学生の学費の埋め合わせに役立っている」と説明している(WSJ)。IIEによれば、外国人留学生の米経済への寄与は年間300億ドル(3.6兆円)。中国人学生だけでも年間98億ドル(約1.2兆円)をもたらしているとされ、今や無視できない存在であることは疑う余地がない。

 アトランティック誌は、外国人留学生の増加で、大学が同胞を教育するという本来の使命を果たせていないのではと懸念する。ニューヨーク大学の2015年の1年生のうち、19%は外国人留学生であったが、アフリカ系アメリカ人はわずか5%だったという。南カリフォルニア大学にはアフリカ系アメリカ人の2倍の外国人留学生が在籍。コロンビア大学では、2015年度の1年生の15%が外国人なのに対し、米中西部出身者は9%、アフリカ系アメリカ人は14%だった。同誌は、伝統的に州内のミドルクラスを教育することを優先する州立大でも同様の現象が起きているとし、米国の大学の姿が変わりつつあることを示唆している。

◆グローバル化には良い面も
 留学生の増加は、悪いことばかりではない。アトランティック誌は大学のグローバル化は、アメリカ人学生にとっては他国の文化や思考に触れるチャンスであると述べる。カリフォルニア大学群学長の広報担当者は、「若者が他州や海外から来た学生たちと机を並べて学ぶことにアカデミックな価値がある」と述べ、留学生を受け入れるのは、単に経済的な理由だけではないと説明する。

 IIEのグッドマン氏は、全米には4,000の大学があり、米国を目指す留学生は今後も増え続けるだろうと述べる。アトランティック誌は、今ある問題を解決するため、政治家、教育者、市民団体などがアメリカの高等教育の使命と重点課題を話し合い、新しい現実的な学生受け入れの方法を探るべきだと述べている。

Text by 山川 真智子