自由より人権より自国の経済を優先するのか?習近平を手厚く歓迎する英政権に内外から怒りの声

 訪英中の中国の習近平主席に、イギリスが破格の「おもてなし」を展開している。すでに7兆円を超える経済協力を中国から取り付けたと報じられているが、経済を優先し、人権侵害や国際秩序への挑戦を続ける中国に目をつむっているとして、キャメロン政権に内外から怒りと落胆の声が上がっている。

◆抗議を圧倒した歓迎
 多くのメディアが、習主席の議会演説、女王主催の晩さん会、キャメロン首相との共同会見などを報じ、イギリス側の手厚いもてなしぶりを伝えると同時に、人権侵害を続ける中国に接近するイギリス政府への抗議活動があったことも伝えている。

 ロサンゼルス・タイムズ紙(LAT)は、活動家グループや人権団体の数百人の人々が、馬車でバッキンガム宮殿に向かう習主席に、プラカードや旗を振り抗議したと伝えた。もっとも、沿道にはそれを上回る数の「親中」サポーターが集まっており、歓迎色が圧倒的に強かったという。訪英の様子がテレビ中継されていたことから、歓迎ムード演出のために、中国大使館がイギリス在住の中国人学生等を動員したという噂もあった、とLATは報じている。

◆圧政に物言わないイギリス
 インデペンデント紙は、習主席の訪英中にイギリスを訪れていた、香港「雨傘革命」の学生運動家、ジョシュア・ウォン氏のインタビューを掲載した。ウォン氏は、香港の中国返還に際し、英中間で合意された普通選挙の実施を求めているが、いまだ実現されていないと主張。「我々は、『雨傘革命』後、英政府は民主主義の約束を守らず、中国とのビジネスがより大切だと見ていることに気づかされた」と述べ、中国に人権侵害を問いたださないキャメロン首相を批判した。

 世界ウイグル会議の議長、ラビア・カーディル氏も、ロイターのインタビューに答え、習主席を歓待するイギリスを批判。中国政府の政策により、ウイグル人の住む新疆は「戦闘地帯」になってしまったと述べ、英政府が習氏に広げたレッドカーペットには、「ウイグル人、チベット人、そして他の反体制者の血が付いていると知るべきだ」と警鐘を鳴らした。

 ガーディアン紙によれば、批判に対し習主席は、「世界には常に改善の余地はある。人権に関し、イギリスや他の国々との協力を増やす用意がある」と述べた。英首相官邸は、キャメロン首相は習主席との会談で人権問題を取り上げたと発表したが、どのようなアプローチだったのか、特定の名前が上げられたか、また討論の長さがどの程度だったかの質問には、言及を避けたと同紙は報じている。

◆アメリカからも苦言
 中国に急接近するイギリスに、アメリカも不満を隠せないようだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、現在のイギリスの対中政策は、アメリカとは対照的だと述べ、サイバー攻撃や、南シナ海での人工島建設問題などには、ほぼだんまりを決め込んできたと述べる。

 元米国務省報道官のジェームス・ルービン氏は、イギリスや他国が中国とのビジネスを求める権利はあるが、国際安全保障への中国の態度が明らかに問題であるこの時期に、ビジネスオンリーの方針を取るのはいかがなものかと苦言を呈している。また、西側諸国が結束して中国に国際社会の責任ある一員となるよう促していくべきなのに、結束した西側の潜在的安定を犠牲にして、自国を利するためにイギリスだけが抜けるようでは、それもうまくいかないと述べている(WSJ)。

◆下院議長も抵抗
 フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、英議員の中でも、中国優遇に対する不満があったと指摘し、英下院の議長、ジョン・バーコウ氏の発言を取り上げている。

 バーコウ氏は習主席の議会演説前の導入スピーチの中で、これまで議会が迎え入れたアジアのリーダーの1人として、アウン・サン・スー・チー氏の名前を上げ、彼女は「人が生まれながらに持つ、人権という自由の権利の国際的象徴だ」と宣言したという。FTは、キャメロン首相は苦い顔をしてにらみつけていたとしており、政権に対する痛烈な皮肉となったことは間違いない。

 批判を受けても、対中傾斜を続ける英政権。国際社会は、英中関係の行方を注視している。

Text by 山川 真智子