“中国に原発まで任せていいのか”英国の対中重視外交、国内で懸念の声も

 キャメロン首相がダライ・ラマと会談後、しばらく中国に冷遇され苦汁をなめたイギリス。首相が訪中を許された2013年からは、その対中重視路線は明確となった。中国資本を取り込もうと、9月20日に訪中したイギリスのオズボーン財務相は、猛烈な営業活動を行ったようだ。このような政府の姿勢に対し英国内で賛否が分かれているようだ。

◆中国を満足させたヨイショ外交
 訪中1日目に習金平主席と会ったオズボーン氏は、「イギリスは中国から逃げられない」、「その逆で、中国に駆け寄っていくべきだ」と、さっそくリップサービス。その後訪れた上海の証券取引所では、「イギリスを中国の西側における最良のパートナーとするために、結束しよう」と呼びかけた(オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー、以下AFR)。中国政府系のグローバル・タイムズは、「人権問題」を口にしなかった同氏の「外交的エチケット」を称賛し、慎み深いのが、ビジネスチャンスを求める者の正しい態度だと評価している(英ガーディアン紙)。

 フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、オズボーン氏を中国の富をがっちりつかみたい経済優先派と評している。アメリカの意向に逆らってアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加を表明したイギリスの決断には、ロンドンを人民元のオフショア取引の中心にしたいという同氏の思惑が影響した、と同紙は報じている。

◆中国資本はイギリスにとって悪?
 今回の訪中では、英国が同国内の原発や高速鉄道への投資を中国側に呼びかけた。すでにサマセット州とサフォーク州の原発プロジェクトには、中国の資金援助が見込まれており、その見返りとして、西側の国では初めて、エセックス州での新規の原発の建設と運営を、中国に任せる計画だという(AFR)。

 主要なインフラ建設に中国を絡ませることについては、慎重な意見もある。国の重要なインフラ整備に関わる事業で、中国企業を排除したオーストラリアのAFRは、イギリスは原発の経済性と国の原子力発電の能力増強の妥当性を重視しており、安全保障を二の次にしていると指摘。また、国連安保理の常任理事国で外交的影響力もあるのに、領土問題などで許容範囲を超えた行為をする中国に強く出られないと述べ、中国に取り入るイギリスに、欧州で一番多く中国マネーが流れ込んでいると皮肉った。

 英インデペンデント紙は、必ずしもイギリスの国益に合致しない国に、主要インフラを任せていいのかと問い、人権問題などで批判される中国との関係強化が倫理的に問題だと述べている。同紙はまた、10月の習主席のロンドン訪問を何としてでも成功させたいイギリスの閣僚たちは、ビジネス欲しさに民主主義、表現の自由を語らない「新世代の欧州政治家のビジョン」を中国メディアに見せることになると皮肉る。そして、訪米した習主席を冷やかに扱ったオバマ大統領の態度とは、かなり違ったものになると述べている。

 FTは、中国との特別な関係を作ることは、「国の繁栄と安全は、開かれた、ルールに基づく国際システムの維持の上に成り立つ」という1945年以来アメリカによって保証されてきた体制から外れることだと述べる。経済と安全保障のバランスを取るのは難しいが、危険な原子力プログラムへの数十億ポンドの投資だけが、イギリスの国益ではないはずだと指摘している。

◆中国からの投資は絶好のチャンス
 一方、中国の投資を歓迎する声もある。シェフィールド大学のキース・バーネット卿は、テレグラフ紙に寄稿し、イギリスには新しい形態のエネルギー、よりよい交通網、都市や住宅の再生が必要だとし、中国からの投資はイギリスにとってのチャンスだと主張する。

 同氏は、中国がイギリスに投資する動機が分からないと恐れる人もいるが、ヒースロー空港や水道会社のテムズ・ウォーターにはすでに中国の資本が入っていると説明。ロンドンやイングランド南東部と、北部との経済格差を縮めるため政府が提案する「ノーザンパワーハウス(イングランド北部経済振興策)」にも大量の資本注入が必要になるとして、中国の投資に期待している。

Text by 山川 真智子