難民で割れる欧州「歓迎ムード」の裏で暴力・弾圧も 受け入れドイツに東欧など反発

 ヨーロッパが、押し寄せる難民の処遇を巡って揺れている。いち早く大量に受け入れる方針を決めたドイツには、先週末から続々と南部のミュンヘン中央駅などに難民が到着。多くのドイツ市民が食料などの援助物資を用意して歓迎した。一方、西部のドルトムントでは極右グループが抗議デモを行い、警官隊・左翼グループと衝突した。同市街では、難民が収容されている建物で不審火も出ている。

 シリアなどからの難民が滞留しているハンガリーでは、ドイツに向けた移動がスムーズに進んでいるという報道がある一方、南部のセルビアとの国境地帯では、難民キャンプ内での警官による暴行や、国境地帯での賄賂の要求などが報告されている。バチカンでは、フランシスコ・ローマ教皇が6日、ヨーロッパ全土のカトリック教会に難民の保護に動くことを求める異例の声明を発表した。

◆「歓迎ムード」の背後に広がる難民キャンプの「殺伐とした風景」
 ドイツは今年だけで80万人の難民を受け入れる方針を決めた。これを受け、先週末だけでハンガリーから列車や徒歩で約2万人がドイツ国内に移動した。ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)の現地報道よれば、ハンガリー・オーストリア国境の駅、へジェシュハロムには、ハンガリーの首都ブダペストから難民を満載した列車が次々と到着。難民たちは向かいのホームで待機するオーストリアの列車に乗り換え、ウィーンを経由してさらにドイツに向かっている。ウィーンの駅でも、市民が難民に食料や日用品を手渡し、それに涙を流して感謝する人々の姿が見られたという。

 しかし、国際人権NGO、アムネスティ・インターナショナルによれば、ドイツやオーストリアで見られるこうした「幸福な様子」とは裏腹に、ハンガリー南部の国境地帯は殺伐とした様相を呈しているようだ。SNSに上げられた写真などによれば、同地の難民キャンプは鉄条網と高いフェンスで囲まれ、まるで捕虜収容所のような厳重な警備下に置かれている。大勢の人たちが狭いエリアに押し込まれ、地面に直に寝泊まりしている人が多いという報告もある。南部のキャンプからブダペストに移ってきたシリア難民の1人はNYTに対し、「ハンガリー警察が突然キャンプにやってきて、警棒で殴られた」と訴えている。

 ドイツのメルケル首相は7日、来年の予算に従来の約4倍の計60億ユーロ(約8000億円)の難民支援費を組み込むと発表した。ドイツメディア『ドイチェ・ヴェレ』(DW)によれば、決定に際しては、連立与党内で現金支給と物品援助のどちらを優先すべきかといった議論が夜遅くまで繰り広げられたという。社民党幹部のオッペルマン議員は難民支援の拡大について、「良い結果だ。人は誰しも寒空の下で寝るべきではない。そして、苦難を受けている人々を拒否してはならない」とツイートした。ドイツは予算増額により、一時受け入れ施設を15万人分増設し、出入国管理にあたる警察官を増員するほか、難民向けのドイツ語講座や公共住宅も増やす予定だ。

◆極右デモ、不審火……ドイツでも反発の声
 ドイツなどを目指す難民の中継地点と化しているハンガリーの現政府は、「反移民派」とされている。同国では首都ブダペストからドイツなどへの難民の移送を急ピッチで進める一方で、流入元の南部国境地帯では厳しい弾圧を始めたと報じられている。ハンガリー政府は、南部国境近くに新たに1000人収容の難民キャンプを開いたが、鉄条網で囲まれ、厳重な警備下に置かれたその様子は、「非人道的」だと人権団体の非難を浴びている(NYT)。また、セルビアとの国境に約170kmに渡るフェンスの設置が進んでいる。一部の列車もハンガリーへの入国を止められている模様だ。警官が国境を越えようとする難民から袖の下を要求しているという複数の報道もある。

 6日には難民問題を話し合う欧州各国の外相会談がルクセンブルクで開かれたが、NYTによれば、「意見の相違をさらに深めた」だけだったようだ。ドイツが各国に難民の受け入れを増やすよう求めたが、東欧諸国を中心に強い反発を受けたという。人権団体などの試算では、現在、シリアだけでも内戦によって住居を失った難民が1100万人おり、そのうちの700万人が国内に、400万人がレバノン、トルコなどの国外にいるという。こうした人々が今後、さらにヨーロッパに押し寄せると見られる。

 ドイツでも、難民受け入れに反発する声は小さくない。DWは、メルケル首相は与党内の反発に「火だるま」になりながら、支援拡大の方針を強行したと記す。また、ネオナチ系の極右グループなどが抗議活動を繰り広げており、西部ドルトムントでは5日夜、26人の極右のデモ隊が、難民が到着する駅に侵入を図った。これを警官隊が阻止し、さらに待ち受けていた約30人の左翼グループとももみ合いになり、双方に負傷者と逮捕者が出たという。また、同市内では、難民受け入れ施設になっている学校の建物で不審火が発生、警察が捜査している。ドルトムント市は先週末だけで約1400人の難民を受け入れた(DW)。

◆ローマ教皇がすべての教会に支援要請
 一方、フランシスコ・ローマ教皇は6日、バチカンのサン・ピエトロ広場で演説を行い、ヨーロッパ全土のカトリック教会に難民の一時避難先を提供するよう呼びかけた。英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、「大陸を揺るがしている移民危機に対するこれ以上ない強い介入だ」と記す。

 教皇は「戦争と飢餓により死を感じ、希望を求めて歩き続けている何万人もの難民の悲劇に直面し、神のみ言葉は、最も小さき見放された者たちの傍らにいることを求めている」と語った。そして、「全ての教区、全ての宗教コミュニティ、全ての修道院、全ての寺院」に「具体的な動き」を求めた。その要求とは、各教会、教区などで最低1家族の難民を受け入れることだ、とFTは記す。

 イタリアのバグナスコ枢機卿は、これに従う準備ができているとバチカン・ラジオに語った。しかし、ブダペストのエルド大司教は「教会は難民を受け入れる立場にはない」と地元メディアに語ったという(FT)。フランシスコ教皇の難民に融和的な姿勢に、これまでも批判的な立場を取ってきたイタリアの野党政治家らは、今のところ沈黙を保っているようだ。一方、フランスの極右政党、国民戦線のル・ペン党首は、溺死したシリア難民の子供の遺体の写真が多くの欧州の人々に衝撃を与え、ドイツなどの政策にも影響を与えたとされることについて、「(その写真は)ヨーロッパ人に『罪の意識』を植え付けるために利用された」と批判した。

Text by 内村 浩介