北朝鮮「48時間以内に放送中止しなければ軍事行動」 砲撃の応酬、緊迫化する情勢

 朝鮮半島の南北国境地帯で20日夕、北朝鮮側から2回にわたって南に砲撃があった。韓国軍も応戦し、北に向けて数十発の砲撃を加えた。死傷者は出ていない模様。

 南北国境地帯では今月4日、北朝鮮軍兵士が国境を越えて埋めたとされる地雷により、韓国軍兵士2人が重傷を負っている。韓国側はこの事件を受け、国境地帯に設置したスピーカーによるプロパガンダ放送を11年ぶりに再開した。今回の北の砲撃は、放送再開に対する報復と見られる。北朝鮮は同日、48時間以内にプロパガンダ放送を中止しなければ、「軍事行動を開始する」とする書簡を韓国側に送った。

◆「48時間以内に放送を中止しなければ軍事行動を開始する」
 韓国国防部(防衛省)の発表によると、京畿道漣川(ヨンチョン)の西部戦線で、20日午後3時53分ごろ、北朝鮮軍が撃った14.5mm高射砲の砲弾1発が山中に着弾した。さらに19分後の4時12分、76.2mm直射砲により非武装地帯(DMZ)の軍事境界線南側に数発砲撃が加えられた。韓国軍も午後5時過ぎに軍事境界線から北へ500メートルの地点に、155mm自走砲で数10発応射した。

 同日、キム・ヤンゴン北朝鮮労働党対南秘書名義の書簡が、韓国のキム・クァンジン大統領府国家安全保障室長宛てに送られた。北朝鮮側は書簡を通じて、南がプロパガンダ放送のスピーカーを撤去すれば、「現在の事態を収拾して関係改善の突破口を開くために努力する意思がある」と主張した。また、これとは別に、「今日(20日)午後5時から48時間以内に対北心理戦放送を中止し、すべての手段を全面撤去せよ。これを履行しなければ、軍事行動を開始する」とする電文が北朝鮮総参謀部から韓国国防部に届いた。

 一連の砲撃で、韓国側に人的・物的被害は出ていない模様だが、全軍に最高レベルの警戒態勢が敷かれた。また、砲撃があった地域の住民約2000人に避難命令が出された。朴大統領は同日午後6時、国家安全保障会議(NSC)の常任委員会を招集。北朝鮮の挑発に断固対応し、韓国軍は万全の対応態勢を維持するよう指示した(韓国・聯合ニュース)。

◆スピーカーには着弾せず
 事の発端は、今月4日に起きた地雷による韓国軍兵士の負傷事件だ。DMZをパトロール中の兵士が地雷を踏んで両足を失う重傷を負い、この兵士を助けようとしたもう1人の兵士も片足を失った。

 韓国軍は10日、この際に爆発した3個の地雷は、その特徴的な形状や埋設状況から、北朝鮮軍兵士が国境を越えて故意に埋めたものだと断定した。ハン・ミング国防部長官はこれを「明白な挑発行為」だと非難し、韓国側は同日、和平プロセスの一環として中断していた北に向けたスピーカーによる金王朝批判などのプロパガンダ放送を11年ぶりに再開した。それ以前から、対北関係の悪化を受けて韓国内の保守派から放送の再開を求める声が上がっていた。北はそれに対し、「放送が再開されればスピーカーを攻撃する」と牽制していた。

 今回はその宣言通りの攻撃とみられるが、スピーカーに被害は出ていない。1回目の砲弾は山中に着弾したため詳細が確認できておらず、2回目の落下地点も最寄りのスピーカーから数キロ離れた地点に着弾したという。そのため、韓国軍は北朝鮮の砲撃はスピーカーを狙ったものではないと分析している。軍関係者は「北側の砲弾発射の経緯を綿密に分析中」とした上で、「分析結果により対応方針を定める」としている(聯合ニュース)。

◆米韓合同軍事演習も背景か
 韓国政府は、「北は、プロパガンダ放送の再開が宣言布告であると一方的に主張している」とメディアに説明している。砲撃は、地雷攻撃によって状況が悪化した「事の本質を覆い隠すためのもの」だとみているようだ。「政府は北の砲撃・挑発など誤った行動に対しては断固として対処していくという原則により、強力な措置を取る」としている。

 また、朴大統領がNSC常任委員会を主催したのは今回が初めてだという。当初は閣僚級の国家安保室長が開く予定だったが、大統領主催に格上げされた。聯合ニュースは、これを政府が事態を深刻に受け止めている証拠だと見る。一方、北朝鮮の国営メディアはこの交戦について全く報じていない。ロイターは「こうした事案で北朝鮮のメディアは通常すぐには反応しない」とし、今後時間を置いて何らかの動きがある可能性を示唆している。

 17日から米韓合同軍事演習が始まっていることも、砲撃の背景にあると見られている。北朝鮮は合同演習を「戦争の準備だ」と非難していた。韓国側も演習期間中に行われた今回の挑発行為を「非常に意図的なもの」だと受け止めている(聯合ニュース)。

 韓国は、プロパガンダ放送を中止するつもりはないとしている。南北が一歩も引く構えを見せない中、朝鮮半島情勢の緊張は高まる一方だ。

Text by 内村 浩介