オバマ大統領、熱唱、涙、抱擁…感情全開 “最初からそうなら実績違った”との声も

 感情を表さず時に冷淡とさえ評されたオバマ大統領が、このところ温かく人間的な部分をしばしば見せるようになり、話題になっている。任期も残り2年を切った今、何がオバマ氏を変えたのか。海外メディアが分析している。

◆聴衆の心をつかんだ、突然の讃美歌
 最近のオバマ氏の変化を示す事例としてメディアに大きく取り上げられたのは、サウスカロライナ州で起きた黒人教会での銃乱射事件の犠牲者となった、クレメンタ・ピンクニー牧師の葬儀での出来事だ。オバマ氏は、追悼演説の中で突然、賛美歌「アメージング・グレース」を歌い、聴衆を驚かせた。

 ロサンゼルス・タイムズ紙(LAT)は、オバマ氏が事前に計画していたとしても、突然歌いだすことは、人間的と受け取られるか、大統領の地位に相応しくないとされるかの紙一重の行為で、リスクはあったと指摘。しかし、オバマ氏の少しだけ調子を外した嫌みのない歌に聴衆は感銘を受けて立ち上がり、ともに歌いだした。結果として話者と聞き手のギャップを埋めることに成功した、と同紙は解説する。

 オバマ氏に対し感情を表さないという批判があり、もっと感情を、もっと情熱を、と述べる批評家もいるという。しかしLATは、今回の「アメージング・グレース(素晴らしき恵み)」のひとときが、歌の力とそれを用いた大統領の力量を示したとして賛辞を送っている。

◆本当は家族思いで涙もろい
 ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、外交的な政治家が多いワシントンで、クールで無関心なスタイルを通していたオバマ氏が、最近は情にもろくなっており、周囲を驚かせていると報じている。

 実はオバマ氏自身も、最近「悲しみの発作」に襲われ、日中涙することがある、と認めている。二人の娘を持つオバマ氏は、彼女たちが成長し旅立つ日のことを思うと、悲しくなってしまうらしい(NYT)。

 NYTは、バイデン副大統領の亡くなった息子のために追悼演説をした際のオバマ氏の姿に、家族に対する深い思いが強く表れていたと指摘する。涙をこらえて言葉を発し、バイデン氏を長くしっかりと抱きしめるオバマ氏の様子を見た元民主党上院議員のケント・コンラッド氏は、そのときの驚きを語っている。同氏は、思わず自分の妻に向かって、「もし彼がこんな気持ちや他者との絆を表に出していれば、大統領としての実績はもっと違っていたかもしれない」と話したという。

◆任期終了間近で、負担も減った?
 米ラジオネットワーク「NPR」によれば、最近オバマ氏は、ポッドキャストで若いころドラッグを使用したことをほのめかしたり、公の場で人種問題を語る際に「ニガー(黒人に対する差別的呼称)」という言葉を使うなど、これまでになく遠慮のない発言が目立つという。オバマ氏は以前から、大統領として管理され、隔離されていることについて不満をこぼしていた。昨年、予定外の散歩に出て観光客と握手した際、「熊が解き放たれた」とジョークを飛ばしたのはそのせいだとNPRは述べている。

 NYTは、大統領の任期もあと2年を切り、オバマ氏はより自由に自分を表現したいのかもしれないと述べる。オバマ氏の元シニア・アドバイザーで、23年間の付き合いがあるデビッド・アクセルロッド氏は、長らく大統領の仕事を勤め上げ、この先に選挙もないことから、今のオバマ氏はほっとできるレベルにあると説明。そのため、気持ちを隠さず、感情を表に出せるのではないかと述べる。

 あるインタビューでオバマ氏は、ホワイトハウスで6年半を過ごし、恐れを感じなくなった現在の心境について説明している。自分は「ナイアガラの滝を転げ落ちる樽だった」と表現し、「脱出して、生き延びたんだ。そしてそれは、とっても自由で開放された気分なんだ」と述べている(NPR)。

Text by 山川 真智子