韓国、米PR会社と契約 慰安婦問題、世界に訴える 日中会談・安倍演説受け危機感

朴槿恵大統領

 インドネシア・ジャカルタで22日に行われた日中首脳会談と安倍首相の演説を受け、韓国メディアが韓国の「孤立化」を心配している。大手紙・朝鮮日報は、日中の関係修復によって「反日本陣営」に韓国だけが留まることになると懸念。ハンギョレ新聞も、世界が日本の「反省」を受け入れれば、謝罪を求め続ける韓国が「逆に異常扱いされかねない」と不安を訴えている。

 安倍首相は、29日にも米議会で演説をし、改めて過去の戦争について反省の意を表明すると見られているが、韓国はこれにも対抗意識を燃やしているようだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、韓国政府が慰安婦問題などに関する自国の主張を世界に訴えるため、アメリカのPR会社と契約したと報じている。

◆日中の雪解けで韓国が「反日本陣営」に取り残される?
 朝鮮日報は、ジャカルタで開かれたアジア・アフリカ会議(バンドン会議)60周年首脳会談の演説で、安倍首相は「日本の侵略という事実にのみ言及し、植民地支配に関する文言を外した」と記す。その背景には「韓国を外交的に孤立させようという意図がある」としている。

「つまり、日本は侵略の事実だけを認めれば、日本の歴史認識問題解決を促す韓中両国のうち、中国を納得させられると考えた可能性があるということだ。この場合、植民地支配についても謝罪を要求している韓国だけが『反日本陣営』にとどまることになる」と同紙は主張。また、10年前のバンドン会議50周年演説で、当時の小泉純一郎首相が「深い反省の文言を入れたのとは対照的なものだ」とし、安倍演説を批判している。

 朝鮮日報は、日中首脳会談についても、韓国の「孤立化」を懸念する記事を掲載している。それによれば、習近平国家主席が中国のアジアインフラ投資銀行(AIIB)について、「既に国際社会であまねく歓迎されている」と述べると、安倍首相は「中国側とAIIB問題について話し合うことを望んでいる」と応じたという。これについて、同紙は「中・日関係がAIIB協力をきっかけに和解局面に転じるのでは、との見方がある。このため、日本と今も確執を抱えている韓国の孤立を懸念する声が出ている」と記している。

◆「謝罪」にこだわる韓国が「逆に異常扱いされかねない」
 ハンギョレ新聞も、安倍首相のバンドン会議演説について、韓国への「植民支配に対する謝罪」には触れず、広く「先の大戦への深い反省」だけに言及したと、不満を表す。そして、日本の識者(和田春樹・東京大学名誉教授)へのインタビューを通じて、「植民地支配に対する反省」が初めて含まれた1995年の村山談話に比べて不十分だったとしている。また、木村幹・神戸大学教授の「韓国が願う植民支配に対する言及を除くことによって、今後日本は韓国と中国を分離して、韓国を孤立化させていこうという意思を明確にした」というコメントを掲載している。

 さらに同紙は、29日の米上下両院合同会議の演説で、安倍首相が今回同様「先の大戦への深い反省」だけに言及したとしても、「日本が戦争に対する謝罪をしたので、植民支配や日本軍慰安婦問題に対して明確に謝らなくとも問題にはしない」という空気が米国内に生まれると予想。そして、「安倍首相の歴史認識を巡って韓米間の溝が深まる状況が予想される」と心配する。

 ある韓国政府関係者は、「もし安倍首相が米国上下両院合同演説で第2次大戦当時の真珠湾攻撃のような内容を取り上げて戦争に対する反省の意向を示すならば、おそらく米国議会は拍手を送るだろう」「そのようなムードの中で韓国が過去に対して謝罪がないとして問題提起するならば、逆に異常扱いされかねない」と、ハンギョレ新聞に話したという。

◆英識者は安倍演説は過去の謝罪を踏襲したと評価
 安倍首相の米議会演説を巡るこうした懸念の下、韓国政府はワシントンDCを拠点とするある米PR会社と契約を結んだという。これを報じたWSJによれば、韓国政府は特に慰安婦問題について、世界に向けて自国の立場を主張することに重点を置いているようだ。企業名の非公開と匿名を条件にWSJの取材に応じたPR会社幹部は、「安倍氏の演説を聴いた記者団に、彼が言わなかったことを理解させる」ことが自分たちの任務だと話したという。

 一方、韓国の解釈とは別に、日中首脳会談と安倍演説に対する客観的な評価も出始めている。ドイツメディア『ドイチェ・ヴェレ(DW)』は、その成果について、アジア情勢を専門とするロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)のクリスティン・スラク氏にインタビューしている。スラク氏は大筋で、今後日中の緊張関係がいくらか改善に向かうと見ているようだ。

 同氏は今回の首脳会談は、日中関係が冷えきっている中で行われた公式会談であり、両国にとって「重要なものだった」と評価。尖閣問題や歴史認識問題といった課題は積み残されているものの、両首脳が両国の貿易関係を良好に維持する事の重要性を揃って認識したことは意義深かったとしている。また、安倍首相の演説については、「深い反省」を表明したことで、1995年の村山談話を含む「日本が過去に行った謝罪を再度行った」と評価している。

Text by NewSphere 編集部