中国GDP成長率、リーマン・ショック以来の低水準 工業生産などエコノミストの予想下回る
中国の1~3月期の国内総生産(GDP)は、物価変動の影響を除いた実質で、前年同期比7.0%増となった。中国国家統計局が15日発表した。昨年10~12月期の同7.3%増より下がっており、景気の減速傾向が表れている。今回の数字は、リーマン・ショック後の2009年1~3月期の6.6%増に次ぐ、6年ぶりの低成長率である。
◆需要の低下と投資の落ち込みからの景気減速
この低水準は、中国経済が勢いをさらに失っているという証拠だと、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は語る。多くの国内メディアが伝えるところでは、国内需要の低下と、投資の落ち込みが原因となっているようだ。フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は、経済の主要な柱である建設と製造が減速する中、成長の新たな原動力を見つけるという課題が強調される、と語る。
FT紙は、中国人民銀行は昨年11月以来、投資を促すために金利を2回引き下げているが、それでも企業は投資に乗り気でない、と伝える。アナリストによると、最終需要の弱さと、バランスシートで負債が大きく膨らんでいることを考慮してのことだという。
◆「新常態」への転換を図る中国政府
この経済成長の減速は、中国政府にとって、ある程度、予想の範囲内のものだったようだ。中国の李克強首相は、負債を原資とする投資による経済成長から、消費者とサービス業がより大きな割合を占める経済体制(「新常態」)への転換を実現しようと努めている、とブルームバーグは語る。
FT紙は、中国が重工業から、国内消費とサービス業へと、成長モデルの再編を試みている現在、景気の減速は必要不可欠であり、不可避であると広く見なされている、と語る。李克強首相は先月、今年の目標成長率を「約7%」と発表したという。
それでも、多くのエコノミストは、中国政府がさらなる対策を取ることが必要だと主張している。
「経済の勢いは、3月に、よりはっきりと減速した。そこから示唆されるのは、より強力な政策対応を行わなければ、4~6月期にはさらに不調が訪れるということだ」と米民間調査機関コンファレンス・ボードの北京在勤エコノミスト、アンドルー・ポーク氏はブルームバーグに語っている。
WSJ紙によると、負債を増加させ、また不動産の供給過剰、重工業の生産能力過剰を、一層あおる可能性のある行き過ぎた刺激策を、中国指導部は避けようとしているという。それでも、今回のGDP成長率の低下により、財政、金融面での緩和政策への圧力がさらに高まった、と記事は語る。
◆GDP成長率よりも他の経済指標の悪さに注目したエコノミストたち
GDP成長率よりも、同日に発表された一般経済統計の内容の悪さに、驚きを示したエコノミストも多い。
たとえば、3月の工業生産は、前年同月比5.6%増と記録的な低さだった、とFT紙は伝える。1~2月も、前年同期比6.8%増と低かったが、それをかなり下回ったと報じた。日本経済新聞(15日)によると、5.6%増というのは、春節(旧正月)の影響を除けば、2008年11月以来の低い伸びであるという。また産経新聞(3月11日)によると、1~2月の水準は、2008年12月以来、約6年ぶりの低水準であったという。
この工業生産の数字は、ブルームバーグが尋ねたエコノミスト40人全員の予想を下回るものだったという。また国家統計局の発表によると、3月、工業生産、固定資産投資、小売売上高の伸びが減速したが、これらは皆エコノミストの予想を下回るものだった、とWSJ紙は伝えた。
中国経済の主要な原動力である固定資産投資の成長率は、1~3月期としては2000年以来の低水準となった、とロイターは伝える。また工業生産が低水準だったが、中国経済のもう一つの主要な柱である不動産部門でも、1~3月期、不動産投資が前年同期比8.5%増となって、2009年に記録された8.3%に次ぐ低水準になったという。
「1~3月期を見ると、輸出は低調、工業生産は低調、固定資産投資はかなり鈍化し、小売売上高は弱含み。それでもまだ実質GDPが7%増ということが、どうしてありえるのか」と、大和(香港)のシニアエコノミスト、ケビン・ライ氏はいぶかしんでいる(ロイター)。GDPの内訳について、国家統計局は、最終的なデータがまだ利用可能ではないとして発表しなかった、とロイターは伝える。
◆中国政府は雇用の安定を最重要視?
中国政府が、こういった経済状況にあまり慌てていないように見えるとすれば、それは、悪影響が雇用に及んでいないからのようだ。中国政府は雇用の安定を特に重視しているようである。ロイターによると、李首相は先週、中国は景気後退の圧力の増大に直面しており、政府は雇用と収入を守るために、そのような圧力に立ち向かわなくてはならない、と語ったという。
WSJ紙によると、中国国家統計局の盛来運報道官は15日の記者会見で、中国の失業率は、最近の調査によると約5.1%で、昨年の水準とほぼ同一だと発表したという。またロイターによると、雇用はサービス部門によって支えられている、と語ったという。
中国政府は、経済を、より消費者主導で、かつ環境面で持続可能なものにするよう試みる一方で、失業と社会不安が広がらないよう、雇用拡大を高水準で維持するという難しいかじ取りを迫られている、とWSJ紙は語る。
WSJのブログ「中国リアルタイム」によると、中国の失業統計は当てにならないことで有名だが、そうはいっても、この5.1%という数字は、中国がたまにしか公開しない内部測定で、いつもの公式発表よりはいくらか信頼できると考えられている、と語る。中国が労働市場について心配しているのであれば、指導部はそれを大っぴらにしたりしないだろう、と語る。
「もしGDP成長率が7%を下回り続けるならば、失業問題が現れてくるかもしれない」と、華宝信託のNie Wenアナリストはロイターに語っている。経済成長が鈍化し、生産者物価指数(PPI)のマイナスがしつこく続けば、より多くの製造業が人員削減するかもしれない、とアナリストらが語っているという。
◆GDP成長率だけでは語れない
GDP成長率は以前よりも下がっているが、中国の経済規模は、以前よりも格段に大きくなっている。「中国リアルタイム」が伝えるところによれば、昨年の中国経済の規模は、名目GDPでざっと10兆ドルと見積もられた。2008年時点の2倍以上の規模だ。そういった点からすれば、中国が最も急発展を遂げていた頃の2桁の成長率と比較してさえも、1~3月期の7%増という成長率はかなりのものに見える、と記事は語っている。WSJ本紙は、中国はやはり世界経済の成長の主要な原動力であり続けている、と語る。