“新たな秩序”中国主導のアジア投銀が台頭 「日米体制に対抗」と海外メディア

 中国主導で年内の設立を目指すアジアインフラ投資銀行(AIIB)に、イギリスが先週、G7諸国で初めて参加を表明した。アメリカがイギリスを含む同盟国に不参加を要請していただけに、このニュースは世界に衝撃を与えたと主要海外メディアは報じている。一方、英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)、米フォーブス誌は、アメリカは方向転換し、AIIBに協力的な姿勢を取るべきだと主張する論説を掲載している。

◆日米主導の既存機関に対抗
 AIIBは昨年10月、中国主導で20ヶ国が設立に合意し、今年中の運営開始を目指している。中国が資金の大半を負担し、インド、クゥエート、カタールなどが設立メンバーに名を連ねる。今回はイギリスが西側諸国では初めて参加を表明した。アメリカは世界銀行、アジア開発銀行など既存の投資銀行を主導する立場から、同盟国に参加しないよう圧力をかけていた。そのため、世界銀行やアジア開発銀行の主要出資国である日本も、他のヨーロッパ諸国やオーストラリア、韓国などと共に今のところ不参加の方針だ。

 フォーブス誌は、中国は現在、既存機関にも資金提供をしているが、その発言権は限られていると指摘する。アジア開発銀行での全加盟国の総投票権数における割合は、日本15.7%、アメリカ15.6%に対し、中国は5.4%だという。他の機関でも同様で、同誌は「中国の経済的重要性とパワーは、世界銀行、国際通貨基金、アジア開発銀行などでは反映されていない」と記す。

 そのため、中国はこの分野で「自ら新たな秩序を構築しようとしている」と、経済学者のフレッド・バーグステン氏(ピーターソン国際経済研究所所長)は、FTに寄せた論説で説明している。既存の秩序で過小評価されるのなら、自ら秩序を作り上げてしまおうというわけだ。AIIBはそのツールの一つに過ぎず、中国は、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカの各新興国との「BRICS銀行」など、他の開発投資銀行の設立も進めている(フォーブス誌)。

◆豪仏などが追随か
 これに対し、アメリカは、「AIIBは既存機関をないがしろにし、中国の戦略的権益拡大の道具になる」と懸念している(バーグステン氏)。中国を主要貿易相手国とするオーストラリアと韓国は、一時参加に傾いていたが、オバマ大統領直々の説得などにより議論を棚上げした。

 それだけに、イギリスの参加表明はエポックメイキングだったと、各メディアは報じている。バーグステン氏は、「イギリスは、この件では中国に友好的態度を示したということなのか。あるいは、単に(中国の台頭という)現実を認知したに過ぎないと考えることもできる」と述べている。イギリスは最終合意書にサインする前に、AIIBの環境基準や融資のセーフガードについて検討する必要があるとしているが、ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)の報道によれば、参加の意志は既にほぼ固まっているという。

 イギリスの参加表明により、他の西側諸国も追随する可能性が高まったという見方も強い。NYTは、オーストラリアが当初のAIIB支持の立場に戻るほか、韓国も政府内議論を再開すると見ている。豪識者は同紙の取材に対し、数週間内に出されるオーストラリアの決定に、イギリスの参加表明が大きく影響すると見ている。また、欧州ではフランスとルクセンブルグが続くのは「間違いない」という。

◆米も参加して「内部から正すべき」
 バーグステン氏は、こうした現実を前に、アメリカは反AIIBの立場から方向転換すべきだと主張する。「透明性」「腐敗対策」などへの懸念はもっともだが、外部から批判する代わりに、少額の出資で良いので自ら参加して「内部からそうした問題を正すべきだ」というのが同氏の考え方だ。

 その根拠として、「既存機関は近年、(発展途上国の)ニーズの表面を撫でているだけだ」と、その形骸化を指摘。そして、この分野でも競争原理はプラスに働くと主張する。また、アメリカはむしろAIIBと既存機関の協力体制強化を進めるべきで、「そうすれば、中国の影響力拡大に便乗することができるだろう」とも述べている。

 フォーブス誌も、「AIIBは世界のパワーバランスの変化を反映したものだ。アメリカが反対しようが、(設立への動きは)全力で進むだろう」と記す。また、アジア開発銀行のある幹部は、アメリカの「強硬姿勢」は無益であり、「アメリカはもう、オーストラリアや韓国を叱りつけることはできないだろう」と述べたという(NYT)。

Text by NewSphere 編集部