豪潜水艦、「そうりゅう」最有力ではない? 経験不足と中国刺激がネック 日仏独の三つ巴へ

 海外主要紙は、オーストラリアが新規に購入する潜水艦の受注先として、日本、ドイツ、フランスが候補に選ばれたと報じた。これまで最有力候補とされた日本だが、ここにきて状況が変わってきた。

◆地域最大の大型プロジェクト
 オーストラリアは、老朽化した国産のコリンズ級潜水艦に代わり、新型潜水艦の建造を計画中。取引額は1兆8500億円以上とされるこの巨額契約の候補となっているのが、三菱重工と川崎重工が共同で建造する、日本のそうりゅう型潜水艦だ。

 昨年、安倍首相がアボット豪首相と安全保障と貿易における協力関係の強化に合意したことで、豪メディアはそうりゅう型が最有力と報道。すでに日豪が秘密の取引を交わしたのではという噂まで流れていた(ウォール・ストリート・ジャーナル紙、以下WSJ)。

 ところが、潜水艦プロジェクトに関しては、日仏独の3か国を候補とし、10か月間の評価プロセスを経て、今年末に受注先を決定すると豪政府が20日に発表。ドイツTKMS社の216型、フランスのバラクーダ級原子力潜水艦をモデルとした通常動力型が、そうりゅう型のライバルとなる模様だ(WSJ)。

◆日本の経験不足と中国への配慮
 潜水艦輸出の経験がない日本を選ぶことは、技術的に賭けであるという声が豪国内では挙がっている(ブルームバーグ)。また、新しい潜水艦には、アメリカの戦闘システムと、米豪で共同開発した魚雷を装備することが求められており、他国との共同作業に不慣れな日本には、ハードルが高いという意見もある(WSJ)。

 日中間の軍事と領土における緊張が高まっていることも、不安材料だ。日本への発注が、オーストラリア最大の貿易相手国である中国の懸念を誘発する恐れがあるとブルームバーグは述べている。

◆豪国内でも海外発注を問題視
 一方オーストラリアでは、海外発注による造船業の衰退を危惧する声がある。造船業の多くはサウス・オーストラリア州に集まり、2013年に主要自動車メーカーの工場が閉鎖されたこともあり、雇用が減っているという(WSJ)。

 アボット首相は、もともと国内で潜水艦を建造することを選挙公約としていたが(WSJ)、政権を取った後、潜水艦建造は「スペースシャトルを作るくらい複雑で、それができるのは数か国だけ(ガーディアン紙)」と方針を転換。批判を浴びたためか、潜水艦を海外に発注しても、かなりの仕事が国内で行われると説明し、「高度な技術を要する少なくとも500の雇用が生まれる」と理解を求めた(ガーディアン紙)。

 最近では、首相は、地元のオーストラリア潜水艦企業体(ASC)も、海外パートナーと協力するなら入札可能だという見解を発表(ガーディアン紙)。毎日新聞によれば、日本も豪との船体の共同生産を提案したというから、プロジェクトの一部は豪国内で行われることが必須になると思われる。

 大詰めを迎えた豪潜水艦プロジェクト。選ばれるのはどの国なのか、年末の発表が注目される。

Text by NewSphere 編集部