ISILの標的はサウジ? 全長1000km、ハイテク「万里の長城」で徹底防御

 過激派組織「イスラム国」(以下、ISIL)は、サウジアラビア支配を狙っていると、中東専門家クロード・サルハニ氏はみている(英BBC)。なぜか。まず、ISILの指導者アル・バグダディは、カリフ(イスラーム共同体の最高権威者の称号)を自称しており、聖地メッカとメディアに到達することが必然的な使命だ、と考えている。次に、さらなる石油の確保を目論んでいる、というのだ。

◆ サウジのハイテク「万里の長城」の実力
 サウジはISILの侵入を防ぐべく、イラクとの国境1000kmにわたって、「万里の長城」ともいうべきフェンスを設置している。イラク内戦時の2006年から検討されており、昨年9月から建設が始まったという。1月15日付の英テレグラフ紙が報じた。

 これは、レザーワイヤーフェンスに、様々なハイテク設備を備えたものだ。具体的には、36km先のトラックの動きを監視できるレーダースペクサー2000を設置した40の監視搭、38の通信タワー、ヘリコプター離着陸スペースが付いた32の軍備ステーションなどだ。240台の装甲車、3万人の兵士も派遣されているという。地下にはセンサーが埋め込まれ、フェンスの前は砂のバンカーになっていて、侵入者のスピードが落ちるように考慮されている。

 またイエメンとの国境でも、最近はアルカイダの動きが活発になり、攻撃の脅威にさらされている。サウジからアルカイダに加わった者も相当にいると推察されているからだ。ここには1600kmにわたるフェンスが、2004年頃から既に構築されている。しかし、これは柵のようなものだという。

◆ サウジ国内の脅威をBBC指摘
 今年1月、サウジの警備隊員がイラクとの国境で攻撃を受け、3人が死亡し、3人が負傷した。犯人4人も死亡した。これは、将来ISILから侵略を受ける可能性があることを裏付ける事件だ、と同国内務省は見ているという。サウジが米国とともにISIL空爆に参加したことへの報復ではないか、ともいわれる。攻撃に加わった王子の一人は、死の脅迫を受けているという。

 BBCはまた、脅威は同国の内部にあるかもしれないとも指摘した。サウジの国民の間では、米国とともにISILを攻撃したことに批判的な人も結構いるからだ。それを裏付けるように、既にサウジから2000人余りがISILに加わっている、と推察されている。シリア/イラク戦争で、ISILに加わるために駆けつけた若者が相当いる。今度は聖地を取り戻すというお題目でサウジに侵攻を開始すれば、さらに多くの戦闘員が集まるはずだ、とBBCは指摘した。

◆ 新国王も国境警備を重視
 アブドラ国王が1月に亡くなり、サルマン国王が即位した際に、前国王に仕えていた閣僚が全員解任された。その中に国家警備隊大臣を勤めていたミテブ・アブドラ王子もいた。しかし、同氏は2時間後に新政権にも加わるというハプニングもあった。これはそれだけ国境警備に警戒を強めているという証しだ(仏ボルタイレ情報紙)。

 一方で、アブドラ前国王に信頼されて諜報機関の長官を勤めたこともあるバンダル王子は解任された。同氏はシリアにスンニ派の反アサド部隊をつくった張本人とされている。その部隊がISILの原型だという(英BBC)。

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 ISILが実質支配するイラク北部・シリア北東部と、サウジアラビアとは接していない。米国ら有志連合の空爆のダメージもあり、ISILが直接サウジアラビアを攻撃することは考えにくい。ただ、BBCが指摘するように、ISILに呼応し国内でテロが発生するリスクは無視できない。新政権発足直後のサウジアラビア情勢が注目される。

Text by NewSphere 編集部