インドネシア、日本の大型PJなぜ凍結? 新大統領“高速道路より子どもの通学路”

 今年に入ってからインドネシアの大型インフラ計画が、再検討されている。1月14日に、インドネシア政府が突如新幹線計画の中止を発表した。世界有数の親日国家である同国の高速鉄道プロジェクトは「日本有利」と言われていた中での中止発表。その衝撃はまさに津波となって日本経済界を襲った。

 そして、計画見直しは高速鉄道だけではない。今、インドネシア政府は前政権時代に進められていたプロジェクトの数々を凍結する作業を行っている。それらには日本からの投資が予定されていたものも多く、日本の財界人は大きな失望を受けた。日本側メディアの大半はこのことについて、「ODA資金を使い惜しむインドネシア側の一方的な通知」、「日本に冷たくなったインドネシア」というニュアンスで報じているようだ。

 だが、現地メディアの報道を見ると決して相手国の気まぐれとは言えない事情も見えてくる。

◆新幹線は高価な乗り物
 新幹線計画の中止について、CNNインドネシアは、イグナシウス・ジョナン運輸大臣のコメント内容を報じている。それによればジョナン氏は、現状の計画即ちジャワ島横断高速鉄道を具現化した場合、その運賃はジャカルタ−スラバヤ間で100〜150米ドル相当になるという。

 「この運賃はガルーダ・インドネシア航空のエコノミークラスよりも高い」。ジョナン氏のその言葉は正しい。これがLCC(格安航空会社)のエアチケットなら、前日予約でも30〜40ドルで済んでしまう。そして当然ながら、飛行機は鉄道よりも移動速度が速い。さすがにこれでは集客など見込めないと思うのは、誰しも同じだ。

 さらにジョナン氏は、「ジャワ島外にも大勢の市民がいる。そして鉄道そのものを見たことがないという人々も珍しくない。彼らを思いやるべきだ」と、コメントした。どうやらこの言葉が、大型プロジェクト見直しの一番の理由を指し示しているようだ。

◆高速鉄道より吊り橋を
 インドネシアの現政権は、ODAをジャワ島以外の地域で活用したいという姿勢をはっきり見せている。

 一つ例を挙げれば、現地で時折話題になる「橋を渡る小学生」である。農村部では子どもたちが小学校へ行くのに途中で川を越えなければいけないということがよくあるのだが、そのための吊り橋が壊れたままいつまでも修復されていない地域も珍しくないのだ。

 ここでは現地大手紙テンポが2013年11月に配信した記事を紹介するが、そこにある写真を見ると吊り橋はただの骨組みも同然で、しかも途中で不自然に捻れている。そのような危険極まりない橋を、現地の子どもたちは毎日渡らなければならない。さらにこの記事の吊り橋は、ジャカルタからそう遠くはないバンテン州チマルガにあるというから驚きだ。

 ジャワ島内ですら未だにこの状態なのだから、その他の島嶼部はさらに悲惨である。外国からのODA資金はジャワ島内の大都市ではなく、基礎インフラすらないジャワ島外に投入するべき…という主張は存在して当然である。

 インドネシアで活動する日本の財界人の殆どは、ジャカルタかスラバヤに拠点を置いている。その視点から今のインドネシアを見つめれば、都市インフラの不備は大きな問題だ。だが現地の執政者たちはインドネシアという国全体について考えなければいけない。となるとODA資金を振り向ける先は新幹線ではなく、やはり吊り橋という結論になる。

◆ジャワ島以外の地域への投資
 高速鉄道計画の他に、日本側が積極的に準備を重ねてきた西ジャワ州チラマヤ港建設計画も中止の憂き目にあおうとしている。これも先述の通り、インドネシア政府が新港建設のためのODA資金注入に対して消極的だからだ。

 現地経済紙ビジネス・インドネシアの記事によると、インドネシア国家開発企画庁のアンドリノフ・チャニアゴ長官は、チラマヤ港建設計画の変更が日尼間の今後の投資に悪影響はもたらさないとコメントしている。「日本側との間で相互連絡はすでに行った。我々と先方は互いに尊敬し合う間柄だ」。

 チャニアゴ氏はそう発言しつつ、「我々は同時に、カリマンタン島での開発計画について話し合った。これからジャワ島外での投資と、それによる工業地区建設が活発になるだろう」と、続けた。チャニアゴ氏のこの発言内容を日本側が了承しているのかは不明だが、ともかくここでも「ジャワ島外での投資」という言葉が出てきている。そもそもインドネシアは約三百の民族を抱える広大な国家で、それをジャワ島出身の執政者が統治してきた歴史を持つ。「ジャワ偏重主義」に不満を覚える国民も少なくなく、特に東ティモールでは「ジャワへの反抗」が独立国家建設という形で現れた。

 だがジャワ偏重主義は、何も中央政府だけではない。インドネシアを目指す外国人ビジネスマンも、大都市への投資ばかりが現地の市民に望まれているものではないという現実をそろそろ知るべきかもしれない。逆に考えれば、これは千載一遇のビジネスチャンスともなり得るのだ。

Text by NewSphere 編集部