日本企業も425億円損失…ロシアのパイプライン建設計画中止の余波と今後の見通し

プーチン大統領

 プーチン大統領は昨年12月1日、ヨーロッパへの天然ガス供給パイプライン『サウス・ストリーム』建設計画の中止を発表した。パイプの供給元である伊藤忠丸紅鉄鋼、住友商事ら日本企業は、3.2億ユーロ(約425億円)が受け取れなくなった(英スコット紙)。本件が政治経済に与えた影響について、海外メディアが注目している。

◆ サウス・ストリーム計画中止による損失額の規模
 サウス・ストリーム建設計画は、2006年に、ロシアのガスプロム社とイタリアのENI社によって進められたものだ。ロシアから黒海の海底を通ってブルガリア、ギリシャ、セルビア、ハンガリー、クロアチア、スロベニアに至り、イタリアとオーストリアの二股に分かれるルートだ。ロシアがこの建設計画に強い関心を示した背景には、このパイプラインによって、ウクライナとポーランドを中継せずに、中央・西ヨーロッパに天然ガスを供給できるからだった(スペインのレベリオン・デジタル紙)。総工費は160億ユーロ(2兆2400億円)で、630億m3/年の供給が予定されていた(スペインのエル・エスピア紙/フランスのボルタイレネット情報紙)。

 しかし、建設計画の中止によって、ヨーロッパの企業は25億ユーロ(約3325億円)ほどを失い、日本企業などパイプ供給元にとっても大きな損失となった。だが、ロシアの国営天然ガス会社「ガスプロム」の損失はより大きい。ここ3年で、この計画に46億6000億ドル(約4660億円)を投じていたという(ロシアNOW)。

 また、ブルガリアは通過手数料5億ドル(約600億円)の収入を失うことになった。

◆ サウス・ストリーム計画の中止になった真実
 なぜプーチン大統領はこの建設計画を中止したのか。ブルガリアが工事を許可しないこと、米国の圧力が指摘されている。パイプライン建設に携わるロシア企業が、欧米の対ロシア経済制裁に関係しているとして、ブルガリアは工事を許可しないでいた。ブルガリアを訪問したジョン・マケイン米上院議員(共和党)は、ロシアだけが損害を被ることになるとして、計画中止に満足の意を表明したという(フランスのボルタイレネット情報紙)。

 EU委員会はロシアの計画中止を予想していなかったようだ。ユンケル委員長は中止をプーチン大統領のせいにし、計画続行・解決策の模索を求めた。パイプラインのルート国で唯一ハンガリーは、計画中止に理解を示した(英スコット紙)。

 ロシアは、新たな供給先として中国を顧客にする道を開拓し、30年間の供給プランに両国は合意した(ロシア・トゥデイ)。

 ウクライナ情勢収束の兆しは見えず、欧米の経済制裁も同様だ。欧州とロシアの我慢比べは続きそうだ。

Text by NewSphere 編集部