豪、日本の潜水艦10隻購入へ? 元軍人は賛同も、野党・労働者は反発

 オーストラリアが日本から「そうりゅう」型潜水艦10隻を購入する可能性が高まっている。ウォールストリート・ジャーナル紙は、豪国防省の複数の上級幹部の情報として「年内の契約が見込まれる」と伝えた。

 これに対し、オーストラリア国内で反発の声が高まってる。現政権が昨年の選挙で、南オーストラリア州を中心とする造船業を支援するため、次期潜水艦の国内製造を公約に掲げていたからだ。多くの豪メディアが、反対派議員や業界、労働組合の声を取り上げている。

【価格と性能面では「そうりゅう」が圧倒的に優位】
 ガーディアン紙などによれば、与党は、南オーストラリア州のアデレードに本社がある「オーストラリア潜水艦企業体(ASC)」に、400億オーストラリアドル(約3兆9300億円)で12隻の新型潜水艦を発注することを選挙公約に掲げていた。ジョンストン国防大臣は当時、ASCを訪問した際に、新たな潜水艦は「ここ南オーストラリアで建造される」と語ったという。

 対して、「そうりゅう」の購入コストは10隻で約200億ドルと言われる。国内製造の約半額で済む計算だ。また、現役のASC製「コリンズ級」は信頼性が低いとされ、国内メディアの批判も多い。Webメディア『news.com』は、そうりゅう型について「どの国の競合艦よりもオーストラリアのニーズに近い。非大気依存推進システムにより、コリンズ級を含むどの通常型潜水艦よりもはるかに長時間潜水できる」と評価している。日本からの輸入のメリットは、コスト面と性能面の両方にあるというのが、各メディアの見方だ。

 しかし、オーストラリア政府は公式に「そうりゅう」の購入決定を認めてはいない。直近のコメントでも、アボット首相は「次期潜水艦については、あらゆる可能性を考慮する」(news.com.au)とし、マクファーレン産業大臣も「まだどこで潜水艦を建造するか決定していない。最も適性な価格を判定し、各専門部署からのアドバイスに基づき、我々にとって最適な潜水艦は何かということを確認する」と述べるにとどまっている。

【雇用と技術育成面で輸入はマイナス】
 野党などからは、日本からの輸入を牽制する声が日増しに高まっている。労働党のビル・ショーテン党首は、「トニー・アボット(首相)と、デビッド・ジョンストン(国防大臣)は、南オーストラリア人に面と向かって嘘をついた」と、「公約破り」を激しく非難した。「海外から潜水艦を購入すれば、海洋国家である我が国の安全保障をリスクにさらすことになる」「アボット政権がやろうとしているのは、自国の潜水艦技術と造船業の破壊だ」とも述べた(news.com.au)。

 シドニー・モーニング・ヘラルド紙によれば、業界団体「オーストラリア産業グループ」のイネス・ウィロックス最高責任者は、「地元の関連企業は、アデレードで潜水艦が製造されるという前提で既に投資計画を決定している。政府は早急に彼らにはっきりとしたことを説明するべきだ」と要求。製造業労働組合の代表も「造船業で何千もの雇用が失われるリスクがある」と、日本からの輸入に強く反対している。

 また、「影の内閣」のデビッド・フィーニー防衛副大臣は、アボット政権が既に海軍の補給艦2隻の入札からオーストラリア企業を除外していることを挙げ、「政府は今度こそ南オーストラリア州に対する公約を守らなければならない」と述べた(ガーディアン)。

【退役軍人会は輸入に納得】
 一方、豪退役軍人会のドン・ロウ会長は、『news.com.au』の取材に対し、一部の保守的な会員を除き、ほとんど反発の声は上がっていないと答えた。同会長は、「(コリンズ級の)大失敗はもう見たくない。重要なのは最上の艦を得ることだ。ドイツから(レオパルド)戦車を買ったのは、それがベストだったからだ」と述べた。

 日本からの輸入か自国生産か。遅くとも来年6月ごろに発表される防衛白書で最終決定が明らかになるという(ガーディアン)。

1/350 海上自衛隊 潜水艦 SS-501 そうりゅう (JB04) [amazon]

Text by NewSphere 編集部