7月給与総額上昇も、実質賃金は低下…消費増税への影響に海外紙注目

 厚生労働省は2日、7月の現金給与総額が36万9846円(前年同月比2.6%増)となったと発表した。これは1997年1月以来最大の上昇率である。一方、物価の変動を考慮した実質賃金は、前年比1.4%減少だった。この指標が示す日本経済の見通しについて、海外各紙がそれぞれの視点から論じている。

【消費税増税への影響は?】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、2015年10月に予定されている消費税増税に与える影響について注目している。

 消費税増税は、経済状況の好転が条件となっている。現金給与の増額は、消費増税を目指す安倍内閣にとって「心強いサイン」となると同紙はみている。ただ、安倍首相のアドバイザーたちは、景気を冷え込ませると懸念している。

 今回の発表について、エコノミストは、「勢いは良い」が、上昇の大部分は製造業におけるボーナスの上昇によるものであり、長期的に堅実な消費をもたらすかは「中小の非製造業へも(賃金上昇が)広がるか否か」が鍵となる、とコメントしている(同紙)。

【家計は圧迫されている】
 ブルームバーグは、給与総額の上昇は経済再生の進捗を示すものの、それを上回る物価上昇率が家計を圧迫していると述べる。7月の生鮮品を除く小売価格は前年同月比で3.3%上昇しており、調整後の「実質賃金指数」は1.4%の減少となる。

 第二四半期において、日本のGDPは年率換算で前年比6.8%の縮小を示した。4月の消費税増税で支出が切り詰められたためで、家計支出と小売の売上は7月にも下落しており、「この四半期の弱さを示す」と同メディアは報じている。

 日本のあるエコノミストは、「賃金データは経済にとってはいいニュース」だが「消費が好転するという結論に飛びついてはならない」と警告する。収入が上昇するという見通しが立つまでは、家計が財布を引き締めることはあり得るという予測だ。またシンガポールのエコノミストは、「基礎賃金の上昇率(0.7%)が明らかにボーナスの上昇率(7.1%)より低い」ため、「上昇率は緩やかになるだろう」との見解を述べている(ブルームバーグ)。

【アベノミクスは結実したのか】
 フィナンシャル・タイムズ紙は、株式市場の視点からこの発表を分析する。日経平均株価は、厚労省の発表後に1.2%上昇した。あるエコノミストは、発表された数字が日本における消費の見通しに関する懸念をある程度相殺する、と予測している。今回発表された成長率は「アベノミクスの結実のサイン」とも受け止められる、と同紙は述べる。

 同紙は一方で、幾人かのアナリストによる「賃金成長率はまだ抑圧されている」との警告も報じている。あるアナリストは「日本の賃金データはアベノミクスの失敗の証拠をより多く示している」「消費税上昇のインパクトの裏では、物価上昇に堰き止められ成長が暴落した」と述べ、「日本は構造改革が必要だという避けられない現実に(安倍首相は)直面している」と分析している。

 総じて慎重な報道であり、消費増税への影響が最も注目されているようだ。

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Text by NewSphere 編集部