エボラ特効薬発見に一歩か? 未承認薬で米患者2人の容態改善 使用の是非をめぐり議論

 西アフリカのリベリア、シエラレオネ、ギニア、ナイジェリアでエボラ出血熱流行が拡大している。世界保健機関(WHO)の4日の発表によると、3月の報告以降、罹患した疑いあるいは罹患していると確認された人数は、887人の死者を含む1603人にのぼる。

 7月末には、リベリアで医療活動に従事していたアメリカ人2人が感染。しかし、実験段階の製剤投与で一命を取り留めたようだ。今のところ、エボラ出血熱に有効な手立ては無いとされる中、2人の回復は朗報だ。

【エボラ感染を封じ込めることはできるのか】
 エボラウイルスによる感染は、西アフリカで爆発的に広がっていて、初期の症状としては、突然の発熱、脱力感、筋肉痛、頭痛、喉の痛みが起きる。その後、吐き気、下痢、腎臓・肝臓障害など急速に進行し、時には体内体外で出血を生じる。

 USAトゥデイによると、8月1日までの1週間で、163人が新たに感染、61人が死亡した。これまでは致死率が約90%にのぼっていたが、今の時点では55%程に下がっているようだ。

 医療の専門家は、迅速で改善された対策が功を奏していると推測している。エボラを治療する薬やワクチンは今のところない。しかし、体内の水分量を維持するなどの補助的療法が役立っているという。

 2人のアメリカ人の例は、経験によって得られた対策で状況が改善してきている兆しでもある、と同メディアは報じている。

【臨床試験前の血清で容態回復】
 リベリアで医療活動にあたっていた内科医のケント・ブラントリーとキリスト教団体に所属するナンシー・ライトボルさんは、今月末にエボラに感染。現場の関係団体は、アメリカ政府がすすめている有望な研究で、サルで実験を済ませたばかりの試験的な血清があることを知り、使用を求めた。冷凍された血清は、数日のうちに海を渡り2人に投与された(ワシントン・ポスト紙)。

 血清投与後、どちらの容態も改善したと複数の報告がされている。ただ同紙は、血清が2人の命を救うか、病気の進展を遅らせているだけなのか断言するには、時期尚早だとしている。

 WHOと国境なき医師団は、感染が拡大しているなかで、試験が十分でない薬を使用するのは危険で、使用するかどうかは難しい判断だとしている(CNN)。

【開発が進まないのは儲からないから?】
 エボラ出血熱には、公に認められた効果的な治療法やワクチンがまだない。問題の一部には、それらの開発が難しいことのほかに、世界全体でみたときに患者の数がまだ比較的少ないため製薬会社が関心を持っていないこともあるという(ワシントン・ポスト紙)。

 米科学誌『サイエンス・トランスレーショナル・メディスン』(2012年)によると、今回使用された試験的血清を、感染24時間後の猿に投与したところ、4匹中4匹すべての猿が生き残ったという。また、48時間後の投与では、4匹中2匹が死ななかったということだ。

 米国立アレルギー・感染症研究所 (NIAID )のアンソニー・フォーシー所長は、「このいわゆる試験的な血清は、ウイルスを撃退すると予想される複数の抗体の混合液だ」(ワシントン・ポスト紙)と説明している。

 今のところ製造できるのはごく少量で、開発した製薬会社『Mappバイオファーマスーティカル』は「適切な政府機関と協力して、できるだけ早く生産量を増やしたい」としている。

 米政府は先週、エボラワクチンの開発を優先的にすすめており、来週にも臨床実験を始める計画だと発表した。うまくいけば、2015年には限定的ながら承認されるようだ。また、世界銀行は4日、西アフリカでの医療システムを改善し、エボラウイルス感染拡大を防ぐため、2億ドルを拠出すると約束した(ワシントン・ポスト紙)。

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Text by NewSphere 編集部