中南米での影響力、“日本は中国に敵わない” 安倍首相訪問も、独紙など疑問

 中南米諸国を訪問中の安倍首相は現地時間28日、トリニダード・トバゴで開かれるカリブ共同体(CARICOM)の会合に初めて出席し、構成する14ヶ国・1地域との首脳会談に臨む。25日に日本を発った安倍首相は、最初の訪問地メキシコを経て27日午後にトリニダード・トバゴに到着。8月4日に帰国するまで、コロンビア、チリ、ブラジルを訪問する。

 これに先立ち、中国の習近平国家主席も今月23日までの9日間の中南米訪問を終えたばかりだ。海外メディアの多くは、このタイミングでの安倍首相の中南米訪問は中国への対抗意識の表れとみて論説記事などを掲載している。

【中南米の資源を巡って日中が外交戦争?】
 安倍首相の主な目的は、経済発展が著しい中南米諸国との経済的結びつきを強化することだ。さらに、日本の国連安保理非常任理事国就任へ向けた根回しも積極的に行うと見られている。前者では、TPP参加国のメキシコ、チリとは最終合意に向けた話し合いを実施。地域大国のブラジルとコロンビアなどとは、豊富な天然資源や穀物などの確保を狙って関連するインフラ整備や資金援助の計画を提案する見込みだ。

 一方の習主席は、ブラジル、ベネズエラ、アルゼンチン、キューバに合計350億ドルの支援を約束した(インターナショナル・ビジネス・タイムズ紙=IBT)。また、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)諸国に上限100億ドルまで支援を拡大し、インフラ整備を支援する200億ドル規模の基金設立を提案したという(ジャマイカ・オブザーバー紙)。

 IBTは、「中国メディアは、安倍首相の中南米訪問を怒りを込めて懐疑的に報じた」と記す。それによれば、中国国営放送CCTVのインタビューで、中国の外交専門家が、「中国は中南米地域で何年も前から外交努力をしており、経済的なプレゼンスでも既に日本のはるか先を行っている」と指摘。「日本が中国に強く対抗できるとは思えない」と断じた。また、北京ニュース紙の社説は安倍首相の訪問を単なる「政治ショー」と揶揄したという。

【尖閣問題の支持でも日本不利か】
 ドイツの国際放送局「ドイチェ・ヴェレ」は、安倍首相の中南米訪問とそれに関する中国とのライバル関係について、欧州の国際情勢専門シンクタンク・FRIDEの研究員、ローラ・テデスコ氏(セントルイス大学教授)へのインタビュー記事をニュースサイトに掲載している。

 テデスコ氏は、習主席だけでなく、ロシアのプーチン大統領も安倍氏の直前に中南米を訪問していることに触れ、各国が権益拡大を狙う中南米で、日本が特に経済力で勝る中国と互角に戦うのは難しいだろうと述べる。また、中国からの巨額な資金援助の手前や不安定な政治体制の国が多いことなどから、尖閣問題などの日中の軍事的な争いについても「ラテンアメリカは日本を支持しないという現実を見ることになるかも知れない」と述べている。そして、「安倍首相の訪問は習氏ほどのインパクトを与えられない」と結論づけている。

 ただし、テデスコ氏は「ラテンアメリカの民主国家は、中国やロシアよりも、民主的な日本と協調するのが自然だ」という私見も述べている。

【国連非常任理事国で支持取付へ】
 CARICOM諸国との首脳会談の主な目的は、国連非常任理事国就任を見据えた根回しだという見方が多い。日本は2016年10月に投票に向けて立候補しているが、中国はそれを公に非難し、対立候補のバングラデシュを支持している。

 CARICOM参加14ヶ国はいずれも投票権を持っている。そのうちの5ヶ国は中国と国交がなく台湾を独立した国家として認めているため、日本への投票は固い。安倍首相は今回、残り9ヶ国も歩調を合わせ、参加14ヶ国が揃って日本支持に回るよう要請すると見られている。

 ジャマイカ・オブザーバー紙にオピニオン記事を寄せたカリブ情勢の専門家、ロナルド・サンダース氏は、CARICOM諸国側は日本に対し、“見返り”として国の借金に対する援助や具体的なOECD援助、エネルギー・インフラ支援などを求めるだろうと記す。そして、日本と中南米諸国が行う全ての話し合いには、「いずれにせよ、中国が大きな影を落としている」と述べている。

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Text by NewSphere 編集部