フィリピン、軍事費47倍の中国と真っ向勝負へ 南シナ海領有権めぐり国際機関の仲裁求める

 中国が南シナ海のほとんどを自国領としていることに対し、国連海洋法条約に違反するとして、フィリピンは3月30日、国連の常設仲裁裁判所に意見陳述書を提出した。

【不当な九段線】
 中国は、南シナ海のほぼ全域の領有を主張するため、「「九段線」という境界線を設定している。

 フィリピンは、「九段線」の無効化を主張。「九段線」がフィリピンより50~80kmしか離れていないこと、東南アジア諸国の排他的経済水域(EEZ)と大陸棚に切り込む形となっていることから、国連海洋法条約に違反すると主張。もし「九段線」を認めれば、豊富な海底資源があるとされる西フィリピン沖のEEZの8割を失うことになる、とフィナンシャル・タイムズ紙は解説した。

【政治的、外交的解決は困難】
 すでにフィリピンと中国の間には、何度もトラブルが起きている。2012年には、南シナ海のスカボロー礁付近で、両国の艦船が2ヶ月間にらみ合いをしたこともあった。

 またウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、フィリピンが実効支配する仁愛礁(Second Thomas Shoal)で、駐留する兵士たちに物資の補給をしようと向かったフィリピン船が、中国の沿岸警備艇から妨害を受けるという事態が、今年何度か確認されている。

【中国の主張とフィリピンの反応】
 中国側は、南シナ海のいくつかの島を不法に占領しているのはフィリピンだとして、仲裁裁判所での審理を拒んでいる。

 中国の外交部報道官は、フィリピンに対し、「2国間の関係にさらなるダメージを与えないよう、間違った路線に進むことをやめよ」と述べ、あくまでも2国間で解決すべきという主張だ。

 フィリピンのロザリオ外相は、今回の措置について、「国際法に基づいた正当で恒久的な解決を求めるため」とコメントした。ブルームバーグは、フィリピンは「政治的、外交的に解決することに疲れ切ってしまった」ことで、仲裁裁判所に紛争解決を求めたとみている。

 なおフィリピンでは、国民の82%が提訴という今回の選択を支持し、93%が法的手段で領土を守るべきだと答えたという。

【国民と米国は理解を示す】
 また、アメリカもフィリピンに理解を示している。ラッセル国務次官補(東アジア・太平洋担当)は2月、米下院外交委員会公聴会で、中国の海洋進出が「地域の緊張を高めている」と述べ、南シナ海での領有権拡大に関する中国の主張についても「国際法に矛盾している」と明言した。

 これによりフィリピンは、初めてアメリカが公に加勢してくれた、と歓迎しているとフィナンシャル・タイムズ紙は報じている。

 ASEAN諸国と領有権問題を抱える中国は、これまで「2国間の解決」を主張してきた。フィリピンの仲裁請求は、国際法のもとで領有権問題が争われる貴重なケースとなる。中国の軍事費は、フィリピンの約47倍(ブルームバーグ)。力を背景にした脅迫や威圧ではなく、平和的な解決を目指す取り組みの行方に、注目が集まる。

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Text by NewSphere 編集部