日本はロシアに配慮している? ウクライナ情勢緊迫の中、欧米との温度差を海外紙報道

 ロシアのクリミア半島掌握に向けた軍事介入の決定を受けて、日本を含む主要7ヶ国(G7)は日本時間3日、ロシアを非難する共同声明を発表した。6月にソチで行われる予定のG8についても、準備会合を取りやめる姿勢を表している。

 日本政府はこの件について「深い懸念と憂慮」を表明。ロシアの行為が地域の緊張を高め、国際社会の平和と安定を損ねる怖れがあるとし、事態が平和的に解決されることを望んでいると発表した。同時に関係各国には、ウクライナの自主権と領土統一を尊重し責任ある行動を取るよう求める、とも述べている。

【それでも今はロシアを突き放せない】
 日本は一応G7の声明に名を連ねた形だが、それでも実際の姿勢は他国に比べて穏やかなもの、と海外メディアは見ているようだ。

 先日開催されたソチ冬季五輪開会式では、アメリカやカナダをはじめ多くの西側首脳が欠席したが、安倍首相はあえて出席。西側の立場を取る国からは、数少ない参加者のひとりとなった。その際には、就任後5回目となるプーチン大統領との会談も行っている。

 背景として、安倍首相は2012年の首相就任以来改善に努めてきたロシアとの関係を崩したくないから、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は伝えている。

 安倍首相がロシアとの関係改善を強化したい理由は、日本が戦後70年来抱える北方領土問題を解決に向けて進めるため、とウォール紙は伝えている。北方領土問題は日本とロシアにとって戦後最後の未解決問題であるまま今日に至り、いまだ両国間で平和条約が結ばれない原因となっている。

 その一方、両国の経済的な結びつきは近年増大。資源の少ない日本はロシアから天然ガスを輸入し、日本企業はその事業を通じロシアに投資するといった具合に、良好な関係を築きつつある、とAFPは伝える。安倍首相はこれを機会に、硬直したままの北方領土問題をなんとか前進させたい、というのが同メディアの見解だ。

【外交の”お手柄”が欲しい安倍首相】
 安倍首相がどうしても北方領土問題を前進させたいのは、悪化する日中および日韓関係が一因、というのが各メディア共通の見方だ。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、日中日韓の領土問題が微妙な折に、北方領土問題がよい方向に進めば、安倍首相は外交で手柄をあげるチャンス、と分析している。
 
 AFPは、特に中国との関係は軍事衝突を懸念する声もあがるほど酷いと伝える。そんな中、安倍首相は今まさに外交手腕が問われており、そうした背景が、安倍首相を「なんとしても外交の勝利が欲しい状況」に追い込んでいる、との見解を示した。

【リスク回避需要で円は急騰】
 一方、市場では今回の軍事介入後、円が急騰。主要16通貨全てに対して上昇した。投資家がリスク回避に円を選んだというのがブルームバーグ誌の分析である。

 三菱東京UFJ銀行の村尾典昭氏は「典型的なリスク逃避環境。ウクライナで高まる緊張が徐々に円高を促進している」との分析を同誌に語っている。

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Text by NewSphere 編集部