戦争被害者として共感?『アンネの日記』日本で人気の理由 イスラエル紙が分析

 イスラエルの新聞ハアレツ紙のニュースサイトに、「日本人はなぜあれほどアンネ・フランクに引きつけられるのか」という記事が掲載された。人気の理由を分析しながら、その陰には、日本特有の問題がある、と指摘している。

【“漫画の国のアンネ・フランク”】
 『アンネの日記』は、今日なお、世界中で読み継がれている。現在は博物館となった、オランダ・アムステルダムの「アンネ・フランクの家」には、毎年100万人以上が訪れるという。なかでも、日本における関心はとりわけ高い、とハアレツは述べる。

 日本には、これまで、少なくとも4つのアンネ・フランクに関する漫画と、3つのアニメ映画があるという。ユダヤ系フランス人ジャーナリストのAlain Lewkowicz氏は、日本での人気の広がりについて調査し、『漫画の国のアンネ・フランク Anne Frank au Pays du Manga』というビジュアルブックを、iPadアプリとして発表した。同氏の主張を、ハアレツが紹介している。

 大部分のヨーロッパ人にとっては、アンネ・フランクは、ホロコースト、および人種差別政策の恐ろしさのシンボルとして受け止められている。しかし日本では、事情が異なる。日本での彼女は、戦争被害者のシンボルだ。そして日本人は、自分たちも戦争の被害者だと見なして、アンネに共感している、というのだ。

【戦争において、加害者側でもあったことを知らない日本人】
 しかしその反面、日本がナチス・ドイツと同盟を結んで戦争を行っていたことや、自国の軍隊が、中国や韓国で何をしていたかについては、特に若者が、驚くほど無知である、と同氏は指摘。「日本人は、アンネ・フランクと同じ時代に、自国の軍隊が、韓国や中国で、無数のアンネ・フランクを作り出していたことに思い至らない」と述べる。

 記事は、広島県福山市にあるホロコースト記念館を紹介している。日本人牧師が、アンネの父、オットー・フランクに会ったことから、感銘を受けて建てた個人博物館である。「アンネ・フランクは、日本では、平和への願いの強いシンボルです」という館長の言葉を取り上げている。Lewkowicz氏は、この施設においても、加害者としての日本の側面は取り上げられていないが、それを遠回しに気づかせることには役立っている、という。そして、館長や、同じ志を持った人々が、徐々に、日本人に真実を教えていくことだろう、と述べる。

【人気の理由の1つは、父の熱意】
 オットー・フランクは、隠れ家に住んでいた8人のうち、ただ1人の生き残りである。ハアレツは、彼が日本人に、アンネのことを熱心に伝えようとしたことが、いまの日本での人気の一端となっているのではないか、という「アンネ・フランクの家」館長の言葉について触れている。

【日記文学の伝統が影響している、という意見も】
 ハアレツの記事とは、まったく角度が異なるが、オランダ政治史の専門家、水島治郎・千葉大学法経学部教授は、オランダで目にした、日本での人気の理由を分析したものを、コラムで紹介している。それによると、日本には『更級日記』、『紫式部日記』といった、日記文学の名作が多数あり、それがのちの日本人の美意識に大きな影響を与えている。アンネの、「日記を書く少女」というイメージが、それにぴったりと当てはまったのだという。

 同教授は「彼女の日記が多くの人に読まれることを通じて、かの国でもこの国でも、同じ思いをする少女が二度と現れることのないように、と願わずにいられない」と述べている。

アンネの日記 (文春文庫)

Text by NewSphere 編集部