17年ぶりに米政府閉鎖へ 回避のシナリオとは

 10月1日から、17年ぶりに米政府機関が一部閉鎖される公算が高まっている。

 米下院は29日、医療保険改革法(オバマケア)の1年延期と医療機器税の撤回とともに、12月15日までの政府支出の継続を盛り込んだ暫定予算修正案を可決した。

 上院は30日午後から審議を再開し、オバマケアの1年延期と、医療機器税の撤回を削除した案を下院に差し戻す見通しだ。

 オバマ大統領も下院修正案に対し、拒否権を発動する方針を示している。

 ベイナー下院議長は、上院が29日に行動を起こさなかったことについて「非常に傲慢」と批判。上院民主党のシューマー議員は、下院の戦略は「(政府閉鎖の)責任を回避する単なる口実」だと反撃した。

 暫定予算案が30日深夜までに可決しなければ、数十万人に上る政府職員が一時帰休となり、政府機関が一部閉鎖する。ただ、国防や郵便配達、航空交通、法執行といった必要不可欠な行政機能は維持するため、多くの国民に影響はないとみられる。

【鍵は共和党の超保守派】
 政府閉鎖を避ける最も簡単な道は、下院が上院予算案を可決することだ。多くの共和党議員はこれを望んでいるが、共和党の超保守派・ティーパーティーが断固反対している。

 ティーパーティーは、2010年に成立したオバマケア(完全実施は2014年以降)に反対しており、閉鎖の見込みが上院民主党に圧力をかけ、オバマケアを廃止させる最高の機会だととらえているためだ。

 民主党のリード上院院内総務は、そのようなティーパーティー幹部に疲れており、「無政府主義者」「異様な幹部」と侮辱している。

【上院が強気の理由】
 上院民主党は、政府閉鎖で国民から非難を浴びるのは共和側と判断しており、多くの共和党議員がオバマケアに賛成していることも有利に働くとみている。また、オバマ大統領と民主党側には「共和党の要求に合意すれば、共和党は将来、財務のデッドラインごとにもっと圧力をかけてくる」との懸念もある。

 次の財務のデッドラインとして、連邦債務の上限問題をめぐる戦いが待ち受けている。債務上限を引き上げられなければ、政府閉鎖よりも経済への影響は大きいとのエコノミストの見解をウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じた。

 フィナンシャル・タイムズ紙によると、政府閉鎖による米経済への打撃は週80億ドルに達するとの試算をゴールドマンサックスのエコノミストが出している。これは1995~1996年にかけて21日間閉鎖したときの経験から算出したものだという。

【閉鎖回避の別のシナリオ】
 ベイナー下院議長が土壇場で上院案を可決するとの見方もある。同議長は今年初めの「財政の崖」のときに同じ手を使っている。

 一方、「下院指導部は別のカードを持っているが、とてもデリケートだ」との共和党議員のコメントをニューヨーク・タイムズ紙は掲載した。

 それについてウォール・ストリート・ジャーナル紙は、議員らが払う医療保険料を相殺するため連邦負担金を制限する改正案を盛り込むことだろうと報じた。連邦負担金制限には多くの議員が反対しているが、上院は議員自身に利益をもたらす政策を守る立場にあるため、瀬戸際でくつがえす見込みもあると同紙は指摘した。

Text by NewSphere 編集部