一触即発のエジプト 「期限後」どうなる?

 エジプトで6月30日から始まった、モルシ大統領の退陣を求めるデモは、一向に沈静化の兆しを見せていない。各地で散発的に、大統領派と反大統領派の衝突事件が勃発し、死傷者が増えている。
 1日には、エジプト軍トップのシシ国防相が、モルシ大統領に対して、48時間以内に政治的危機を収拾しなければ、軍が独自の「ロードマップ(行程表)」を導入するとの「最後通告」を出すに至っている。日本時間3日深夜の期限が迫っている。
 国営メディアによれば、1日夜にはアムル外相ほか数人の閣僚が辞任し、2日には大統領の2人の報道官と内閣の1人の報道官が辞任したという。
 こうした事態に対し、国連のナヴィ・ピレイ人権高等弁務官も、モルシ大統領に、「(対立陣営との)真摯な国家的対話」を促したという。
 刻々と時の重みが増すなかで、海外各紙が、各方面からエジプトの現状を報道した。

【モルシ大統領の覚悟】
 モルシ大統領は、軍の「最後通牒」後の2日夜、国営テレビを通じて演説を行った。大統領は退陣要求を断固拒否し、選挙とイスラム憲法の「正当性を守るために生命を捧げる」との覚悟を強調した。
 また、今回の不安定な情勢は、旧ムバラク体制の残党と、若者の不満を操作して大統領に弓を引かせようとする勢力の責任だと非難。野党との和解を果たしたら、6ヶ月以内に議会選挙を行う可能性もあると述べ、自らの面目と地位を温存しつつ事態の解決を図ろうとする努力を垣間見せたという。

【ポストモルシを見据えるか? 反大統領派の「体制」づくり】
 街路に繰り出し「打倒モルシ」を叫ぶ人々は、「軍」は自分たちの味方で、「期限」がくればモルシ大統領の排除に乗り出すと信じている模様だ。デモの主催者である「タマルド」は、軍が指定した期限までデモを持続するよう市民に呼びかけている。
 反モルシ派の統合組織「国民救済戦線」は、組織の代表者として、現在の3人のリーダーの1人である、エルバラダイ氏を選んだと発表した。いくつかの青年政党を巻き込んで結成された反大統領組織「6月30日戦線」もこれに同調し、「ポスト・モルシ」を見据えるかのような動きを見せているという。なお、これについて、エルバラダイ氏からのコメントは得られていない。

【米政府の対応】
〈オバマ大統領、モルシ大統領に「民主主義」指南?〉
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、モルシ大統領は国民に向けたメッセージのなかで、「私が国の憲法の正統性を守ることを期待する国家がある。選択肢はない」と述べていた。政権のスポークスマンがツイッター上で表明していた「オバマ政権の支持」を「後ろ盾」として示唆するような発言だが、米政府の発表は、より中立的で慎重だと、フィナンシャル・タイムズ紙は伝えている。
 ホワイトハウスの声明によれば、オバマ大統領は月曜の晩、モルシ氏との電話会談で、「米国はエジプトの民主的プロセスを尊重する」とはしたものの、「いずれの陣営もしくは団体を支持するつもりもない」と表明している。さらに、「デモ参加者の要求に応える用意があるのを見せてはどうか」と促し、「民主主義とは選挙に終始するものではなく、すべてのエジプト人の声が「届いている」と保障することだ」と述べたという。

 米国は、中東最大の同盟国の危機的状況に対し、1日時点ですでに、大統領のみならず、ケリー国務長官、デンプシー統合参謀本部議長などが、それぞれ対応を行ってきたという。
 オバマ政権の高官が、「米国では、軍事クーデターによって政権を掌握した国に対する援助は法によって禁じられている」と発言した。米国が現在エジプト軍に拠出している年間13億ドルの援助の行方も絡んで、エジプトでは、それぞれが互いを「米国の手先」と非難し合ったり、「米国の腹の内」を探る言動も飛び出しているようだ。
 しかし、この点についてサキ報道官は、「オバマ政権は、政府、反政府勢力、軍、どの陣営とも連絡を取ってきているが、どの陣営にも加担するつもりはない。エジプトの今後は、米国が選択する筋合いではないからだ」と明言している。

〈エジプト国民の「米国観」〉
 エジプトの街角では、デモ参加者から、「エジプトにとって、米国は邪魔者だ」「どうせ米国はイスラム教徒が大嫌いなのだ」との反発や、「米国にとって大切なのは、自国の国益と、イスラエルだけ。イスラムだろうがそうでなかろうが、関係ない」との冷めた意見などが聞かれているという。
 識者からは、「一国の運命を左右する大事にあたって、米国にできることは何もない。ただ、大きな変化に備えるべきだ」との意見が出されているようだ。

【モルシ大統領の最後の「砦」、ムスリム同胞団は・・・?】
 1日、モルシ大統領の最後の「砦」ともいうべきムスリム同胞団は、大統領の退陣を求める反大統領派に対し、「(選挙という民意をないがしろにするのなら)我々の屍を越えていけ」と一歩も引かぬ構えを見せていた。
 しかしアルジャジーラは、独自のインタビューによって、同胞団の「本音」に踏み込んでいる。それによれば、ムスリム同胞団の政治勢力である「自由公正党」のスポークスマンに対し、「党は全面的にモルシ氏を支持するのか」との質問をぶつけたところ、「我々が支持するのは「民意」だ。民主主義国家では、民意を知る手段は「選挙」のはずだ」と述べた。そのうえで、「エジプトを独裁国家に引き戻すことには断固立ち向かうが、憲法を遵守した上であれば、国を正常化に導くいかなる勢力とも協力の用意はある。いかなる解決をも支持する」との含みのある答えが返ってきたとしている。

 孤立化していくモルシ氏と「民主主義」を問う各派と国民。日本時間3日深夜の「期限」後の情勢が注目される。

Text by NewSphere 編集部