スノーデン容疑者、出国 激怒するアメリカに対する中国の反論とは?

 米国家安全保障局(NSA)の大規模な個人情報収集プログラムの存在を暴き、一躍時の人となった元契約職員、エドワード・スノーデン氏。勤め先のハワイから香港入りした同氏は、実名インタビューに応じ「香港で米政府と対決する」意向を表明していた。
 しかし23日、一転、ロシアに旅立ったことが明らかになった。同氏が最終的に目指すのは、ウィキリークスのアサンジ代表の亡命で知られるエクアドルとされ、すでに亡命の申請がなされたと、同国政府が認めているという。
 スノーデン氏の弁護士や、「逃亡」の援助を表明しているアサンジ氏らによれば、同氏は香港で「安全な」個人宅に潜伏していたが、「世界一優秀な諜報組織」の追及や自身の行く末を「悲観」することも多かったという。そして、「政府関係者」との接触を経て、半ば罠であることを疑いつつ、急遽出国を決意し、行動に移した模様だ。
 
 同氏が香港からモスクワに移動したことは確認されているものの、その後、エクアドルに向かう経路である、ハバナ行きの飛行機には乗っていなかったことが確認されている。ロシア国内と見られるが、現在の居場所は不明で、アサンジ代表によれば「安全な場所」だという。

 ガーディアン紙が、たった一人の「素人」が世界最大の諜報組織を擁する大国の「裏をかいてのけた」茶番、と形容した事態はなぜ起こったのか。
 海外各紙はさまざまな角度から今後の米国、そして関係各国の立場や展望を分析した。

【米国、中国に激怒】
 24日、アメリカはスノーデン容疑者の香港出国を認めたことへの強い非難を表明した。
 同国の主張によれば、当局は15日に逮捕状を発行し、香港政府に身柄の引渡しを要求していた。ところが、香港当局は先週金曜日になって「追加情報」を要求。米政府がその対応をしているさなかの「逃亡劇」だった。
 これについて香港政府は声明で、米政府からスノーデン氏の身柄拘束を要請されていたものの、妥当性を判断するだけの情報提供を求めている間に、スノーデン氏が香港を発ったと説明。「スノーデン氏を引き留める法的根拠はなかった」としている。
 しかし、ホワイトハウスのカーニー報道官は、「香港の移民局担当官の単なる事務手続き上の決定との説明には納得できない」と断言。さらに「これは正当な逮捕状が出ている逃亡者を意図的に拘束しないという中国政府の選択であり、この決定が米中関係にマイナスの影響があることは疑いのないところだ」と強く批判している。

【関係各国の反応】
〈中国の反論〉
 香港政府を通じて、スノーデン氏の逃亡を手助けしたと米国から名指しの非難を浴びた中国は25日、政府系新聞社人民日報の社説で、真っ向からの反論を展開した。ガーディアン紙が伝えたところによると、同紙はスノーデン氏を「若き理想主義者にしてヒーロー」と形容。「中国と香港のネットワークに侵入したという」アメリカが、謝罪するどころか非難してくることを痛烈に皮肉った。いわく、「スノーデン氏の行為は米政府の偽善者という仮面をはいだ」のであり、「アメリカは「人権の模範的擁護者」から個人のプライバシーの盗聴者に成り下がった」のであり、他国のネットワークへの「狂った侵入者だ」というのだ。

〈ロシアの反応〉
現在、スノーデン氏が滞在しているとみられるロシアに対しては、アメリカはあらゆるチャンネルを用いて、「スノーデン氏引渡し」を求めているという。
 ケリー国務長官は訪問先のインドで、ロシアが米国の送還要求を無視すれば「深刻な問題」になると警告したほか、カーニー大統領報道官も24日の記者会見で「ロシア政府がスノーデン容疑者の米国送還に向け、あらゆる可能な選択肢を検討するよう期待している」と繰り返し強調。具体的な言明を避けつつも、今後の「報復」をちらつかせての強硬姿勢を示した。
 これに対し、ニューヨーク・タイムズ紙の報道によれば、ロシア外務省は現在、米国と犯罪者の引渡しに関する条約を締結していないことから、対応の義務はないとして、沈黙を保っている模様。「スノーデン氏と面会したか」「今後の対応は」などの一切に対しノーコメントを貫いているという。
 スノーデン氏がエクアドルへの途上になく、出国の気配を見せていないことについては、ロシア当局が引き渡しに応じる準備をしているのか、あるいは自国でスノーデン氏を拘束するつもりなのか、憶測が飛び交っているようだ。

〈エクアドル〉
 エクアドルのパティニョ外相は、訪問先のベトナムのハノイで開いた記者会見で、エクアドル政府はスノーデン氏の亡命申請の審査を考慮していると語った。説明によれば、申請は「世界共通の表現の自由と市民の安全保障」に基づいたものだという。

【アメリカの対応】
 こうした、アメリカの要請に「誠実に」応じる気配のない各国に対し、アメリカはどう対応するのか。
 ロシアに対しては、今後の犯罪引渡し協力などを行わないことや、戦力の配備やイラン、シリア問題への対応によってはロシアを「いらだたせる」ことは可能だが、そもそも、対立姿勢を鮮明にするプーチン大統領を動かす力になりうるかは疑問だと各紙は分析している。
 中国に対しても同じで、むしろ、今後、シリアや北朝鮮問題の解決において、両国の協力を必要とする立場であり、どこまで強気に出られるかには疑問が呈されている。
 対米輸出がもっとも多いエクアドルに対しては、議会の決定次第では両国の貿易関係が遮断されることから、「脅威」になる可能性もあるようだ。

 このように、世界一の大国の影響力が意外に「及ばない」ことを露呈してしまった今回の事件については、国内からも「オバマのような甘い考えでは、プーチンのような断固とした政治家に太刀打ちできるはずがない」など、非難の声が上がっているという。

 ガーディアン紙によれば、スノーデン氏が持ち出したデータは、新聞社の「ネタ」にはならない反面、他国にとっては米国のシステム解析などに役立つ、垂涎の的となりうるものだという。米国議会からも、この情報が他国に渡ることへの懸念が噴出している。

 政権始まって以来の試練に立たされているオバマ政権はこの危機を乗り越えられるのか。かたや、スノーデン氏はエクアドルの地を踏めるのか。世界中が固唾を呑んで見守っている。

Text by NewSphere 編集部